新たな力



シーグフリードと山賊の長はゆっくりと女子供の集団に近づいて行く。
山賊の長は集団の女子供の姿を見ながら
「みんな、私だ・・・・・・迎えに来た」と声をかけるが、集団の反応はない。
集団はそれぞれ武器を構え、いつ2人を襲おうか様子を伺っているようだ。



シーグフリードは山賊の長の隣で集団の女子供の様子を見ている。
女子供の顔を見ているうちに、それぞれの目が時折赤く光っているのが見えた。
集団からは異様な雰囲気が漂っている。



目が赤く光っている。
もしかしたら誰かに操られているかもしれない。



シーグフリードがそう思っていると、集団から数人の女子供がシーグフリードに向かってきた。
シーグフリードは腰から剣を抜くと、刃を一瞬女子供に向けて大きく左から右へを振った。
それに怯むように女子供の動きが一瞬止まると、シーグフリードは剣の柄の先端部を使い
一番近くにいる女性のわき腹に軽く当てた。



女性がゆっくりとその場に倒れると、シーグフリードは女性が持っていた長い棒を奪った。
そして剣をしまい、棒を大きく振り回すと、次々と周りの女子供を攻撃して行く。



シーグフリードの周りにいた女子供が倒れると、シーグフリードは周辺にいるであろう山賊達に向かって
声を上げた。
「この集団は何者かに操られている!軽く気を失わせる程度に攻撃するんだ、力を貸してくれ!」



それを聞いた山賊の長は戸惑った。
「な、何だと?誰かに操られているって?」
「誰かはまだ分からないが、想像はつくだろう?」
シーグフリードが山賊の長を見ると、山賊の長は戸惑いながら塔がある方を向いた。
「まさか・・・・・・」
「でも、そうとしか考えられない。まずはこの集団を片付けてからだ」
シーグフリードは持っている棒を集団に向けると、再び集団に向かって行った。



シーグフリードの声を聞いた山賊達は戸惑いながらも、徐々に集団がいるところに出てきた。
山賊達は手に棒を持ち、シーグフリードがやっていたように動きを真似ながら、女子供を倒していく。



しばらくしてようやく女子供の集団を倒すと、シーグフリードは塔がある方を見た。
集団を倒しているうちに、いつの間にか塔の近くまで移動していたようだ。
「あ、あれは・・・・・・・!」
山賊の長が何かに気がついたのか、シーグフリードの隣で声を上げた。
シーグフリードが塔を見ると、塔の側に2人の男の姿が見える。
「シーグヴァルド・・・・・!」



シーグフリード達が塔の近くまで移動すると、シーグヴァルドと大柄で太った男がいた。



こいつが例の太った男か・・・・・・・。



シーグフリードが大柄の男を見ていると、隣で山賊の長が大柄の男に聞いた。
「お前・・・・・・うちの女子供達に何をした?」
すると大柄の男はとぼけるような口調で答えた。
「何をしたかって?人聞きの悪いことを」
「何だって・・・・・・!」
「女子供の目が赤く光っていた。この塔から出てきているのを見ている。操っていたのはお前か?」
今にも襲い掛かっていきそうな山賊の長を制止するように、シーグフリードが2人の間に割り込んだ。
すると大柄の男はシーグフリードを見ながら
「その証拠はあるのか?私があの集団を操っているという」
「・・・・・・・」
シーグフリードは何も言えず大柄の男を睨みつけている。
「もういい」山賊の長は諦めたようにこう言った「とりあえずあの女子供は連れて帰る」
「連れて帰るだって?」
大柄の男はそう言うと、不気味な笑みを浮かべながら笑い出した。
「な、何がおかしい」
山賊の長が戸惑いながら大柄の男を見ると、大柄の男は笑うのと止めこんなことを言った。
「連れて帰れるのから帰ってもらおうか。もしその女子供達が帰りたいと言うのなら・・・・・」



「何だと・・・・・・?」
大柄の男が何を言っているのか分からず山賊の長が戸惑っていると、シーグフリードは何かを感じたのか
後ろを振り向いた。
それと同時に2人の後ろにいる山賊達の戸惑うような声が聞こえてきた。
「何だ・・・・・・どうしたんだ?」
山賊の長が後ろを振り返ると、目の前の光景に驚いた。



山賊達の後ろには、さっき倒したはずの女子供の集団がゆっくりと近づいてきていたのだ。
それぞれ武器を持ち、今にもシーグフリード達に向かってきそうな物々しい雰囲気を漂わせている。



「な、何だ・・・・・?さっき気を失わせたばかりなのに、どうなっているんだ?」
山賊の長が集団を見ながら戸惑っていると、シーグフリードも集団を見ながら
「どうやら気がついたようだ。でも未だに目が赤いまま・・・・・まだ正気に戻っていない」
「何だって、どうすれば・・・・・・」
「正気に戻すまで攻撃するしかない。もう1度やるんだ」
シーグフリードは集団に向かって行くと、山賊達も後に続いた。



シーグフリードと山賊達は再び女子供の集団と戦うと、女子供はまた次々と倒れて行った。
再び女子供がほとんど倒れたかと思ったが、しばらくすると再び起き上がり攻撃してくる。
それが何度か繰り返されていくうちに、シーグフリード達はだんだんと体力が奪われ疲れていくのだった。



そんなシーグフリード達の戦いの様子をアルマスとホーパスは遠くから見ていた。
シーグフリードからは逃げるように言われていたが、気になり木々の影に隠れていたのだ。
「どうして?どうして何度倒れてもすぐに起き上がって攻撃できるんだろう」
木々の影からホーパスが女子供の集団を見ている。
アルマスもホーパスの隣で同じ方向を見ながら
「誰かに操られてるって、シーグフリードさんがさっき言ってたけど・・・・・・」
「まだ操られてるってこと?」
ホーパスがアルマスの方を向くと、アルマスは黙ったままうなづいた。
ホーパスは再び女子供の集団をみながら
「そんな・・・・一体誰が操ってるの?このままだとシーグフリードさん達が疲れて倒れるかも」
「たぶん塔の誰かだと思うけど・・・・」
「じゃ塔に行って、操ってるのを止めないと」
「うん、分かってるけど・・・・塔に行くにはあの集団の中を行かないと行けないよ」
「え・・・・あ、そうか。林を通って行けないんだ」
ホーパスは辺りを見回すと、2人がいるところが木々の切れ目で、その先は開けた場所だと気がついた。



「じゃ、どうすれば・・・・・・」
ホーパスがそう言いかけると、アルマスが小声であっという声を上げた。
ホーパスが女子供の集団の方を見ると、数人の山賊が倒れている。
倒れ、すぐに立ち上がり再び攻撃する者がいれば、倒れたまま女子供の攻撃から身を守っている者もいる。
山賊達に疲労の色が出てきているのは明らかだった。



アルマスはどうするか迷っていた。
女子供に炎を向ければ、たちまち女子供が死んでしまう。
だからと言ってこのままじっとしていれば、シーグフリード達の体力がもたず次々と倒れてしまうかもしれない。



シーグフリードさん達を助けたい。
でも、炎を当てればあの子供達は死んでしまう。
一体どうすれば・・・・・・・・。



僕はこのままじっと見てるしかないのか・・・・・・・?



アルマスが歯がゆい気持ちで見ていると、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「あの子供達を助けたいの?あの青年の手助けをしたいの?」



「君は・・・・・!昨日の・・・・・・・」
アルマスがその声に気がついた途端、辺りを見回した。
「僕も聞こえたよ」ホーパスも辺りをキョロキョロと見回している「でも誰もいないけど・・・・」
「どこ・・・・・?どこにいるの?」
アルマスが声の主の姿を探していると、再び声が聞こえてきた。
「もう一度聞くわ。あの青年と子供達を助けたいの?」
「助けたい」アルマスはそう答えた後、続けてこう言った。
「このままだとみんな倒れてしまう。なのに僕はどうすることもできない・・・・でも助けたいんだ!」
アルマスの声が林中に響き渡った。



するとアルマスの目の前に赤い炎がぼわっという音と共に現れた。
「!?赤い炎・・・・・・・」
アルマスとホーパスが赤い炎を見ていると、だんだんと人の形に変化していく。
赤い服を身にまとい、短髪で赤髪の小さな女の子の姿が見えると、2人はその姿をじっと見つめていた。



赤い炎・・・・昨日夢で見たのと同じだ。
昨日夢で出てきたのはこの女の子・・・・・?



アルマスは昨日の夢で見た記憶を思い出していた。



女の子が2人の方を向くと、アルマスが聞いた。
「君がいつも僕に声をかけてきてくれたの?」
「そうよ」女の子はあっさりとうなづいた「私はエルド。炎の妖精なの」
「炎の妖精・・・・初めて見た」
ホーパスがエルドの側まで来ると、エルドの姿をじっと見つめている。
エルドはホーパスの顔を見ながら
「あなたがホーパスね。いつもアルマスと一緒にいる猫ね」
「え、僕が見えるんだ」
「見えるわ」エルドは嬉しそうに微笑んでいるホーパスを見た後、アルマスを見た。
そしてアルマスの目線まで移動してくると、アルマスが聞いた。
「昨日の夢に出てきたのも君なの?」
「そうよ。それに昨日のは夢じゃないわ。実際にあなたと話をしたの」
「やっぱりそうだったんだ。夢にしてははっきりと覚えてるし、さっきの炎だって昨日もはっきり見えてたし・・・・」
「それよりも今の話をしましょう」エルドは後ろを振り返り、山賊と女子供が戦っている姿を見ている。
アルマスははっとして集団の方を見ながら
「僕はあの人達を助けたい・・・・・助けたいけど、炎を出すとあの人達を殺してしまう。どうすればいいのか分からないんだ」
「シーグフリードさんや山賊達があの集団を倒しても、すぐ起き上がって攻撃してくるんだ。このままだとシーグフリードさん達が
 やられてしまうよ」とホーパス
「あの子供や女性達は何者かに操られているのよ。それを解かない限り永遠に繰り返されるわ。相手が倒れるまで」とエルド
「じゃ、どうすればいいの?」
アルマスがエルドを見ると、エルドはアルマスを見てこう言った。
「今こそあなたの新たな力を使う時よ」



それを聞いたアルマスは戸惑った。
「新たな力・・・・・・?」
「そうよ」エルドはうなづくと続けてこんなことを言った。
「今からその新たな力を呼び出すわ。それで使えるようになるの」
「どうやって?」
「今から呼び出すわ。まずは目を閉じて」



アルマスはエルドの言われたまま目を閉じた。
「ねえ、僕も目を閉じた方がいい?」
ホーパスがエルドに聞くと、エルドはどうするか一瞬考えて
「・・・・・どちらでもいいわ。でも光で眩しくなるかもしれない」
「じゃ、僕も目を閉じるよ」
ホーパスも目を閉じると、エルドは空を見上げた。



アルマスが目を閉じていると、エルドの声が聞こえてきた。
それは外からではなく、アルマスの心の中から聞こえてきた。



もう一度聞くわ。あの青年や山賊達、子供達を助けたいの?



アルマスはエルドが外から聞いていると思い、エルドの姿を見ようと目を開けようとした。
すると再びエルドの声が聞こえてきた。



目を開けないで。あなたの心に問いかけているの。あなたの本心を知りたいのよ。
本当に助けたいと思っているの?



アルマスはどう答えればいいか分からず黙っていると、エルドの声が聞こえてきた。



声に出さなくていいわ。思っているだけでいいの。あなたの思っていることを知りたい。



アルマスは目を閉じたまま思った。



・・・・・助けたい。



するとすぐエルドの声が聞こえてきた。



どうして?どうしてみんなを助けたいの?



アルマスはしばらく考えると、こう思い返した。



今まで僕はシーグフリードさんに助けてもらった。
シーグフリードさんのおかげでここまで来た。
そのシーグフリードさんが目の前で戦っているのに、僕は見ているだけでどうすることもできない。
炎の力を使えば、みんなを殺すことになってしまう。それがとても苦しい。
もし助けられるならすぐにでも助けたい・・・・・助けたいんだ!



すると突然目の前が明るくなった。
目を閉じているにもかかわらず、だんだんと目の前が真っ白に明るくなっていくのをアルマスは感じた。



目を閉じているのに、どうしてこんなに眩しいんだろう・・・・!



アルマスは何が起こっているのか分からず、思わず両手で目を覆った。
ホーパスも眩しいのか、アルマスと同じで両手で目を覆い隠している。



しばらくするとようやく光が消えたのか、光が弱くなったのか眩しいほどの明るさではなくなっていた。
アルマスが目を覆っていた両手を放すと、エルドの声が今度は外から聞こえてきた。
「もう目を開けてもいいわよ」



アルマスが目を開けると、目の前にはエルドともう1人の妖精らしき女の子の姿があった。
白いワンピースのような服をまとい、白髪で足先まである長い髪を下げ、身体が光に包まれている。



「隣にいるのがその・・・・・・」
「ユースよ」アルマスがエルドの隣にいる女の子を見ながら言いかけると、エルドが答えた。
「ユース・・・・・君が新しい力なの?」
「その通りよ」ユースはうなづきながら平然と答えた「私は光の妖精。あなたに光で力になるわ」
「炎の次は光の妖精か」
ホーパスがユースの姿を見ていると、ユースはアルマスに聞いた。
「それで、あなたの願いはさっきエルドから聞いたわ。あの人達を助けたいのね」
「うん」アルマスは戦っているシーグフリード達の方を見た「今すぐにあの戦いを止めさせたいんだ」
「分かったわ。それならその願いを空に向けて祈ってみて」
ユースは薄暗いグレーの曇り空を見上げた。
アルマスはユースの言っていることが分からなかった。
「どういうこと?僕の願いを空に向かって祈るって」
「やってみれば分かるわ」
ユースはそう言った後、空高く移動してしまった。



「どういうこと・・・・・・?」
アルマスがユースの姿を追っていると、エルドの声が聞こえてきた。
「やってみれば分かるわ。みんなを助けたかったら、今すぐやってみて」



僕の願いを空に向かって祈ればいいのか・・・・・・。
本当にそれであの戦いが止まるのかな。



アルマスは半信半疑のまま、ユースの言われたことをやろうとまずは両手を前に出し両手を合わせた。
そして空を見上げ、薄暗い空を見ながら祈った。



シーグフリードさん達が倒れてしまう前に、戦いが終わりますように。
誰かに操られているのか分からないけれど、それが解かれて戦いが止まりますように。



アルマスがしばらく祈った後、エルドがアルマスの前に再び姿を見せた。
アルマスがエルドを見ていると、エルドがこんな事を言った。
「今度は空に向かって炎を出してみて」



「え・・・・・?」
それを聞いたアルマスが戸惑っていると、エルドは構わずさらにこう言った。
「いいから言われた通りに、空に向かって炎を出してみて」



アルマスは戸惑いながらもゆっくりと両手を空に向けた。
そして深呼吸したかと思うと、アルマスは空に向かって炎を出し始めた。
アルマスの赤い炎は薄暗い雲に覆われた空に向かって上がって行く。
「空高く上がって行ってる。大きな炎の柱みたいだ・・・・どうなるんだろう?」
ホーパスは空に上がって行く炎を見守るように見ているのだった。



一方、シーグフリード達は女子供の集団の攻撃に応戦を続けていた。
山賊達の数人は疲弊してしまったのか倒れてしまっている。
何度倒してもすぐに復活して攻撃を繰り返す集団に、シーグフリードも疲れの色が出てきていた。



このまま続くと危ない。山賊達もだんだんと力尽きて倒れてきている。
でも女子供達を殺す訳にはいかない。
一体、どうすれば・・・・・・・・。



その時だった。
突然空が明るくなり、何も見えなくなるほど真っ白な光に包まれた。
「・・・・・・・!?」
どこから光が来ているのか気になったシーグフリードは空を見上げた。
シーグフリードの周りにいる山賊達や女子供の集団もみんな空を見上げている。



光は空からシーグフリード達に降り注ぐように射し込んでいる。
強い光だが、眩しくならないほどの優しい光。
シーグフリードは最初、雲の切れ目から太陽の光が漏れているのかと思っていたが
空をみているうちにそうではないと考え始めた。



太陽からの光にしては光が弱いように感じる。
この光は一体・・・・・・・。



空を見続けていると、どこからか山賊の声が聞こえてきた。
「おい、気がついたのか?正気に戻ったのか?」



シーグフリードが声が聞こえた方を見ると、山賊の1人が今まで戦っていた女性に話しかけているのが見えた。
女性の手からは武器が地面に落ち、女性は呆然とした様子で山賊を見ている。
「おい、どうかしたのか?」
シーグフリードがその山賊に声をかけると、山賊は女性を見ながら
「空が明るくなった途端、急に攻撃が止まった・・・・・それで声をかけたところだ」
「何だって・・・・・」
シーグフリードが女性の目を見ると、目の色が赤から青に変わっていることに気がついた。
「目の色が青になっている・・・・・元に戻ったのか?」



すると他の山賊達も同じなのか、至るところで声が聞こえてきた。
「おい、こっちの子供も目が元に戻ってるぞ!」
「攻撃が止まった。正気に戻ったのか?」
「やっと子供に会えた。すっかり元に戻ってる」
「空から光が降りてきた途端、攻撃が止んだみたいだ」



シーグフリードの周辺ではすっかり女子供の集団が武器を地面に置き、攻撃を止めていた。
女子供達の目はほとんど青色になり、元に戻ったように見える。
山賊達は女子供と抱き合い、再会を喜ぶのだった。



「もう戦いは終わったみたい」
一方、ホーパスがシーグフリード達の様子を見ていた。
「アルマス、もう炎を出さなくていいわ。戦いが終わったみたいだから」
それを聞いたエルドは空に炎を出しているアルマスに声をかけた。
アルマスは炎を出すのを止めると、シーグフリード達がいる方を見た。
空からはまだ明るい光が射し込んでいる。



「良かった・・・・・・戦いを止められたんだね」
アルマスがシーグフリード達の様子を見て安堵の表情を見せた。
「アルマスの炎が光に変わるなんて思わなかったよ。正気に戻す光だなんて」とホーパス
「あれはユースが空でアルマスの炎を光に変えているのよ。その光をあの山賊達がいるところに向けているの」
エルドが2人の目の前で説明すると、背を向けてシーグフリード達がいる方を見ている。
「それがアルマスの新しい力なんだ」
「その通りよ」エルドが再びホーパスの方を振り返るとうなづいた「もうそろそろユースが戻ってくるわ」



女子供達が正気に戻り、シーグフリード達が胸を撫で下ろしているのも束の間だった。
突然強い風がシーグフリード達に襲いかかるように吹いてきたのだ。
「うっ・・・・・・・・なんだこの風は、今にも吹き飛ばされそうだ」
山賊の長は飛ばされまいとその場で低い体勢でしゃがみ込んだ。
その隣にいるシーグフリードも前かがみになり低い体勢を取っていると、悲鳴のような声が聞こえてきた。
2人が辺りを見回すと、周辺にいる女子供達が風に吹き飛ばされていくのが見える。



「何・・・・・・?!」
次々と女子供達が風に取り込まれていくかのように飛ばされて行く光景に、シーグフリードは戸惑いを見せた。
「おい、何をするんだ!女子供達を返せ!」
山賊の長は立ち上がりながら風に向かって叫ぶが、風にあおられすぐ倒れてしまった。
「一体、何が・・・・・・・・」
シーグフリードが風にあおられながらもゆっくりと立ち上がると、風の行く先を見た。



女子供達を取り込んだ風は塔の中へと入っていくではないか。
そして女子供達を全員塔の中へ運んでしまうと、風はすっかりと止んでしまった。



それを見た山賊の長は塔の側にいる大柄の男を見た。
「お前の仕業だな?女子供達を返せ!どういうつもりだ?」
山賊の長が怒鳴り声を上げるが、大柄の男は何も答えることはなかった。
黙ったまま塔の入口に目を向けると、そのまま塔へ入ろうと向かって行く。
「おい待て!逃げるのか?女子供達を返せ!」
山賊の長が大柄の男の後を追おうとすると、その行く手をシーグヴァルドが阻むように目の前に現れた。
するとシーグフリードが2人に近づき、シーグヴァルドを見た。
「シーグヴァルド!なぜだ。なぜあの男の味方をする?」
「・・・・お前に言う必要はない」
シーグヴァルドは静かに答えると、剣を抜き、シーグフリードに剣を向けた。



それを見たシーグフリードもゆっくりを剣を抜いた。
「お前の野望のためか?」
「・・・・・・・」
シーグヴァルドは何も答えず、剣を高く振り上げるとシーグフリードに襲い掛かってきた。



2人の戦いが始まり、山賊の長が走ってその場から離れると周辺にいる山賊達に呼びかけた。
「女子供達はあの塔の中にいる!塔に入って連れ戻すんだ!」
山賊達がいったん塔の入口前に集まると、塔の周りを取り囲むように移動して行った。
山賊の長と数人の山賊達は入口前のドアを開けようとするが、ドアは鍵がかかったようにしっかりと閉じられて開かない。
「鍵がかかっていて開かない・・・他のところはどうだ?」
山賊の1人が大声で塔の他の場所にいる山賊達に聞いた。
すると塔の至るところから声が聞こえてきた。
「ダメだ、こっちの窓も閉まっている」
「窓を割ろうとしたがびくともしない、どうなってる?」
「こっちの窓も同じだ」
「どこもダメだと?・・・・・・一体この塔はどうなっているんだ!」
それを聞いた山賊の長は怒りをぶつけるような大声を上げた。
そして山賊全員に聞こえるような大声で怒鳴りつけた。
「こうなったらこの塔を破壊してでも中に入るぞ!意地でも連れ戻すんだ!」
山賊達は声を上げながら、塔に入ろうと持っている剣や武器で窓やドアを壊そうと動き出すのだった。



一方、アルマス達はシーグフリードとシーグヴァルドの戦いを見ていた。
2人はお互い譲ることなく、互角の戦いが続いている。
「なかなか決着がつかなさそうだね。いつまで続くんだろう」
「・・・・・・」
アルマスは何も言えず、黙って2人の戦いを見ている。
「でも、どうして兄弟で戦ってるんだろう?仲良くすればいいのに」
「・・・・もしかしたらシーグヴァルドさんも、塔の誰かに操られているのかも」
「アルマスもそう思う?でもさっきの光を浴びても元に戻ってないみたいだけど」
ホーパスが2人の戦いを見ていると、突然目の前が白い光に包まれた。
ユースの姿が見えると、ホーパスはユースに聞いた。
「ねえ、山賊の子供達は光で元に戻ったみたいだったけど。シーグヴァルドさんは戻ってないみたい。どうしてなの?」
「それは・・・・・・」
ユースが答えようとすると、アルマスがそれに被さるように
「光がシーグヴァルドさんまで届いてなかったんじゃ・・・・・・」
「そうかもしれないけれど、もしかしたらすっかり洗脳されているのかもしれない」
「洗脳?」
「心も体もすっかり、あの塔の誰かに操られているのよ。そこまでいってしまうとなかなか元に戻すのは難しいわ」
「ねえ、あの山賊達があの塔に入ろうとしてるみたいだけど」
ホーパスが塔の周りにいる山賊達を見ている。



アルマスとユースも塔に目を移すと、エルドが塔の窓を壊そうとしている山賊達を見ながら言った。
「残念だけど、彼等は塔には入れないわ」
「え、どうして?」
ホーパスがエルドの方を見ると、エルドは塔を見たまま
「あの塔、外には見えないシールドみたいなものが張ってあるの。薄い膜みたいなものが見えるわ」
「薄い膜?そんなの見えないけど・・・・・そんなに丈夫な膜なの?」
「外から攻撃されてもシールドがそれを撥ね返しているの。だから中には入れないわ」
「え・・・・・・じゃあの子供達はどうなるの?せっかく元に戻ったと思ったのに」
「分からないわ。あの人達が何を考えているのか」
エルドが首を振ると、ホーパスがアルマスを見て聞いた。
「アルマス、炎であの塔のシールドを壊せないの?」



一方、シーグフリードとシーグヴァルドの戦いは続いていた。
互角の戦いが続いていたが、今まで戦い続けていたシーグフリードに疲れの色が出てきていた。



このまま続くとまずい。そろそろ終わらせなければどちらも倒れてしまう。



シーグフリードは剣を構えながら、シーグヴァルドの様子を伺っていた。
見たところシーグヴァルドには疲れの色は見えていない。



ここをどう切り抜ければ・・・・・・・・。



シーグフリードがそう思っていると、シーグヴァルドが再び襲い掛かってきた。
何度か剣と剣が重なり合い、2人がいったん離れると、シーグフリードは息を整えようと剣を降ろした。
そして再び剣を構え、動き出したシーグヴァルドに向かおうと前に動き出した時だった。
「うっ・・・・・・・・」
突然左腰に痛みが走り、シーグフリードの動きが止まった。



シーグフリードの動きが止まったのをシーグヴァルドは見逃さなかった。
シーグフリードが再び動き出そうとした時、シーグヴァルドが目の前にいた。
シーグフリードは咄嗟に剣を前に出し、自分の身を守ろうとしたが、すれ違い様にシーグヴァルドの剣が
シーグフリードの左肩を切りつけた。
「ううっ・・・・・・・・・」
痛みで苦しい表情を見せるシーグフリードに、シーグヴァルドは不気味な笑みを浮かべていた。
シーグフリードの左肩からは赤い血がにじみ出してきている。



「シーグヴァルド・・・・・・・」
痛みをこらえながらも右手で剣を向けようとするシーグフリードに、シーグヴァルドは笑みを浮かべながら叫んだ。
「やっと邪魔者が消える・・・・・お前もこれで終わりだ!」
シーグヴァルドは剣を高々を上げると、シーグフリードに向かって走り出した。



「危ない!」
動かないシーグフリードにシーグヴァルドが向かって行くのを見たアルマスは咄嗟に両腕を前に出した。
両手から炎が放出され、炎はシーグヴァルドに向かって伸びて行く。
その途中、別のところから1本の矢が炎に向かって伸びてきた。
矢が炎の中に入った途端、矢は燃え尽きることなく炎の先端に移動すると炎の矢となって2人のところへ向かっていく。



炎の矢が向かってくる気配に2人は気づいた。
「何・・・・・・!?」
それを見た途端、炎の矢の凄まじいほどの勢いにシーグヴァルドは思わず怯みながら後ろに下がった。
シーグフリードも後ろに下がったが、炎の矢がシーグフリードの前を通り過ぎようとした時
赤い炎が突然青い炎に変わった。
「・・・・・・!?」
2人の間を通り過ぎた炎の矢は、遠くの林の木に刺さり止まった。
木に刺さった途端、炎はすっかり消えて、矢だけになっていた。



「あの矢は・・・・・・・」
シーグフリードが遠くの林を見ていると、後ろから大声が聞こえてきた。
「シーグフリード!大丈夫か!」
シーグフリードが声がした方を見ると、そこには馬に乗り、弓矢を持ったフーゴの姿があった。
「フーゴ!」
フーゴの姿を見た途端、シーグフリードは安堵の表情を見せた。



それをシーグヴァルドが悔しそうな表情で見ていると、突然後ろでゴゴゴゴゴという低い音が聞こえてきた。
シーグヴァルドが後ろを振り向くと、塔がゆっくりと動き出している。
「塔が!塔が動き出したぞ!」
塔の周りにいた山賊達は塔から離れ出しながら、動いている塔を見ている。
「塔が動いてる・・・・・・・!」
アルマスとホーパスも塔を見ている。



塔が次第に空に向かって浮き始めると、塔の入口のドアが開き、大柄の男が顔を出した。
「シーグヴァルド!」
それを見たシーグヴァルドは塔へ走って行き、入口の手前まで追いつくと飛び乗るように塔の中に入って行った。



「待て!」
だんだんと浮き上がっていく塔を見ながら、シーグフリードが声を上げた。
「待て!女子供達を返せ!」
山賊達も塔を見上げながら大声を上げている。



塔はある程度の高さまで浮き上がると、まるで霧のようにすーっと姿を消して行った。



「消えた・・・・・・」
左肩を右手で押さえながら、シーグフリードが空を見上げているとフーゴが走ってきた。
「シーグフリード!大丈夫か?」
「フーゴ」シーグフリードがフーゴの姿を見ると、その数メートル後ろで走ってきているアルマスの姿が見えた。
フーゴはシーグフリードの左肩を見ながら
「ケガは・・・・・大丈夫か?」
「ああ、なんとか大丈夫だ。さっきは助かった、ありがとう」
するとそこにホーパスが姿を見せた。
「シーグフリードさん、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
「また塔が消えちゃったね。せっかく見つけたのに」
ホーパスが塔が消えた空を見ていると、そこにようやくアルマスがやってきた。
「シーグフリードさん、ケガは大丈夫なんですか」
「大丈夫だ」シーグフリードはアルマスにそう言うと、空を見上げた。
そして近くで空を見上げている山賊達を見ながら
「塔はまた探せばいい。あと行くところと言えばあの場所しかないだろう」
「あの場所・・・・・ヴェストか」
フーゴは空を見上げた後、シーグフリードの左肩を見た。
「それよりもまずはケガの手当が先だ。手当をしに戻ろう」



「・・・・・・・・」
一方、塔での一部始終を見ていたトールヴァルドは黙ったまま驚いた様子で画面を見つめていた。
その隣でティードがトールヴァルドのただならぬ様子を感じ取っていた。
「・・・・どうしたの?」
トールヴァルドはしばらくしてからゆっくりと答えた。
「・・・・・青い炎だ」
「青い炎?それがどうかしたの?」
するとトールヴァルドはティードの方を向いて
「あの炎、途中から色が変わった・・・・・・それにあの青年の前を通り過ぎる直前で急にだ」
「炎って、アルマスが出した炎の事?」
「ああ、ティードも見ていただろう?赤い炎から急に青い炎に変わったのを」
「ええ。見てたわ。2人の間を炎が通り過ぎた時・・・・・・でもそれならシーグヴァルドも青い炎を見ていたんじゃないかしら」
「・・・・・・」
ティードの言葉にトールヴァルドは一瞬黙り込んだが、すぐにティードにこう頼むのだった。
「もう一度この目で確かめたい。時間を戻すんだ。この画面上で」