ヴェスト城の闇
シーグフリード達が寝静まった夜。
アルマスが眠っていると、アルマスの体から小さな光が出てきた。
その光はアルマスの体から離れ、アルマスの真上まで移動すると、光が消えユースが現れた。
ユースは下で眠っているアルマスを見ながら、小さな声で名前を呼んだ。
「エルド」
するとしばらくしてユースの目の前にぼわっという音とともに赤い炎が現れた。
そしてエルドが姿を現すと、ユースを見るなり聞いた。
「どうかしたの?」
「話しておきたいことがあるの」
ユースは神妙な面持ちでエルドを見ている。
「話って?」
「ここだと誰かに聞かれるとまずいわ。外に行かない?」
「分かったわ」
エルドがうなづくと、2人は同時に姿を消した。
2人がいなくなった途端、アルマスの側で眠っていたホーパスがゆっくりと目を開けた。
「・・・・今、誰かがいたような気がしたけど」
ホーパスは辺りを見回しながら、その場からふわふわと上へと移動するが誰の姿も見当たらない。
「誰もいない・・・・・気のせいかな」
一方、エルドとユースはアジトの外に移動した。
空は真っ暗で、遠くには三日月がぽっかりと姿を見せている。
ユースが三日月を見ていると、エルドがユースの方を向いた。
「話って何?」
ユースはエルドの方を向いて話を始めた。
「夜が明けたら、あの城へ行くのよね」
「そうだけど、それがどうかしたの?」
「あの城・・・・・なんだか嫌な予感がするの」
「嫌な予感?」
「そう。まだあの城には行ってないけれど、なんだか黒い影のようなものを感じるわ」
「黒い影?」
「もしかしたらアルマスに危険が及ぶかもしれない」
「危険って・・・・・・?」
エルドは戸惑うが、すぐに首を振って
「でも、アルマスが行くのであれば、私達がアルマスを守らないと・・・・大丈夫よ。私がアルマスを守るわ」
「私も同じよ。何があってもアルマスを守るわ」
エルドの言葉にユースはうなづくが、続けてこんなことを言った。
「でも、今のままじゃ力が足りないわ。もっと強い力がないと・・・・・・」
「僕もいるよ」
2人の目の前にホーパスが姿を現した。
突然のホーパスの姿に2人は動揺を隠せなかった。
「い・・・・いつからいたの?」
驚いた表情のエルドにホーパスは微笑みを見せながら
「いつからって?最初からいたよ。さっきまで姿は消してたけど」
「・・・・・・・」
「油断できないわね」ユースはやれやれというようにため息をついた。
ホーパスは2人を見ながら
「アルマスを守るっていう話でしょ?僕もアルマスを守りたいんだ。アルマスは僕にとって大切な人なんだ」
「分かったわ。みんなでアルマスを守りましょう」
「ユース、ところで何か考えがあるの?」とエルド
「それは・・・・・あの城に行ってみないと分からないわ。行ってからどうするか決める」
そして次の日。
空は晴れ渡り、青空が広がっている中、アジトに昨日の女性が大量の布を抱えながら入って行った。
部屋ではシーグフリードとフーゴが床に置かれている女性ものの服を選び、着替えをしている。
「・・・・こんな感じでいいかな」
フーゴが着ている薄茶色のワンピースを見ながらポツリとつぶやいた。
ホーパスがそんなフーゴの姿を見ながら
「でも、それだけだとまだ男だって分かるよ。他に何かつけないと」
「ああ、あとは顔が見えないように大きいスカーフを巻けばいい」
フーゴはそう言いながら、スカーフがないか探している。
一方、シーグフリードも戸惑いながらも青いワンピースを身に着けていた。
ただサイズが大きめなのか、下に黒いシャツの生地が見えている。
「おい、どうして自分の服の上から着てるんだ?それにその服大きすぎるだろう?」
ケントがシーグフリードの姿を見ていると、シーグフリードはケントを見て
「確かにサイズは大きいが、この方がいい。何かあった時にこの方が動きやすいんだ。それに脱ぎやすいし」
「まさか、その下に剣をつけたままなのか?」
「ああ。いざという時に武器はあった方がいいからな」
「ま、まあ・・・・・それはそうだが。そのままだとすぐにバレそうな気がするな・・・・・」
ケントがシーグフリードの身なりを見ていると、そこに昨日の女性がやってきた。
女性を見たケントとシーグフリードが挨拶をすると、女性はシーグフリードの服を見た。
そして持っている黒の大判のスカーフをシーグフリードの胸に当てると、そのままそのスカーフをシーグフリードの首に
巻き始めた。
黒いスカーフが黒いシャツを隠し、違和感のない感じになっている。
「ありがとう。いい感じになった・・・・・これで後はスカーフで顔を隠せばいい」
ケントが女性にお礼を言うと、女性が2人にこんな事を言った。
「そろそろ城に行った方がいいわ。みんな城へと向かって行ってる」
しばらくして、シーグフリード達は外に出た。
外には同じ方向へ歩いて行く女子供達の姿が見える。
「城は向こうか・・・・・・・」
黒いスカーフを深々と被ったシーグフリードが女子供達を見ている。
「じゃ、あの女子供達に紛れて行くか」
その後ろで白いスカーフを被ったフーゴも女子供達を見ていると、シーグフリードはうなづいた。
「みんな、気をつけて」
ケントがさらに後ろで声をかけると、フーゴは後ろを振り返った。
「ケントも気をつけて行けよ。これからノールに戻るんだろう?」
「ああ、もう少ししてから戻る・・・・・・健闘を祈るよ」
「ありがとう。村長によろしくと言っておいてくれ」
フーゴは再び前を向くと、城へ行こうと歩き出した。
しばらくしてシーグフリード達は女子供達の列に合流した。
女装している2人の後ろをアルマスとホーパスが着いて行くように歩いている。
「あれ、アルマスはそのままでよかったんだっけ?」
ホーパスがアルマスの服を見ている。
アルマスはうなづきながら
「僕は子供だから・・・・・シーグフリードさん達は大人だからあの恰好してるんだし」
「あ、そうか。城に行くのは女性と子供だけなんだっけ」
「うん。でも・・・・・これからどうなるんだろう」
「城に行って、あの塔に連れて行くんじゃないのかな?ノールの時と同じように」
「でも、それなら真っ直ぐあの塔に行ってもいいんじゃないのかな。城に寄らなくても」
「うーん・・・・・城の人じゃないと塔がある場所が分からないんじゃないの?」
ホーパスが考え込んでいると、話が聞こえたのか前でシーグフリードが割り込んで来た。
「そうだとしたら、ヴェスト兵が直接塔に連れて行ってもいいはずだ」
「シーグフリード」フーゴが注意するかのように小声で声を上げた「今女装をしている。あまり話さない方がいいぞ」
「・・・・・・・」
しばらくしてシーグフリード達はヴェスト城に辿り着いた。
城の周りには多くのヴェスト兵が女子供達を見張るように立ち並んでいる。
ヴェスト兵に先導され、城の中に入り、しばらくすると大広間に出た。
前には大きな十字架が掲げられているのが見える。
大広間の中央辺りまで歩き進めた途端、ヴェスト兵の大きな声が聞こえた。
「止まれ!ここでしばらく待つんだ!」
大勢の女子供達の動きが止まり、前を歩いていた人達の動きが止まると、シーグフリード達も足を止めた。
周りは女子供達の話し声で騒がしくなっている。
「ここで待てって・・・・・・どういうことだ?」
シーグフリードが辺りを見回しながら小声でつぶやいた。
「分からん」フーゴも辺りを見回している「たぶんヴェスト王か誰かが出てくるんじゃないか?」
「ヴェスト王が?どうしてだ」
「たぶんこの後どうするか説明があるんだろう・・・・王じゃない誰かが出てくるかもしれないが」
アルマスが辺りを見回していると、少し離れたところでユースとエルドが姿を現した。
「ここでしばらく待つみたいね。どういうつもりなのかしら」とエルド
ユースは下にいるアルマス達を見降ろしながら
「たぶん塔に連れて行く全員をここに集めるためだと思うわ。ちょうどいいかも」
「ちょうどいいって?」
「何かあった時のための対応を考えるのにちょうどいい時間ってこと」
ユースは辺りをひと通り見回すと、エルドにこう言った。
「エルド、あなたは左側に何があるか見て来て。私は右側を見るわ」
「ここに何があるかを見るのね。分かったわ」
「しばらくしたらここに戻りましょう」
2人はうなづくと姿を消した。
一方、アジトの外ではケントと多くの男達が集まっていた。
ケントは男達を見ながら
「じゃ、オレはそろそろノースに戻る。夜にはフーゴ達が戻るだろう。後はよろしく・・・・・」
「ケントさん!」
後ろから突然大声が聞こえ、みんなが声がした方を見ると、数十人の男達の姿があった。
「どうした?何かあったのか?みんな揃って」
ケントが男達に近づくと、1人の男が堰を切ったように話を始めた。
「助けてください!2,3日前から妻と子供が帰ってこないんです」
「何だって?」
ケントが聞き返すと、他の男達も同じことを話し出した。
「オレのところもだ。もう3日間戻ってきてない」
「ヴェストの城に行ってからずっと戻ってきてない」
「城で何かあったに違いない」
「安全なところに連れて行くと言っていたが、どこなのか分からない」
「落ち着け!」
だんだん大きくなる声にケントは大声を上げた「安全な場所・・・・・森にある塔に行ったんじゃないのか?」
ケントの大声に男達の声が一瞬止まったが、1人の男が静かに話し始めた。
「その塔に行ったが・・・・・妻と子供には会えなかった」
「何だって?塔に行ったのか?どうして会えなかったんだ?」
「塔の中に入ろうとしたが入れなかった。それに塔から男が出てきて言われたんだ・・・・」
「塔から男が?何て言われたんだ?」
「ここには女子供達はいないって・・・・・・」
それを聞いた男達は声を上げた。
「嘘だ。いないはずはない。そいつが嘘をついているんだ」
「そうだ、城から塔に連れて行ってるはずだ。いないなんてことはないぞ」
「みんなで塔に行って女子供を連れ戻すんだ!」
辺りが騒がしくなる中、ケントはフーゴやシーグフリードの事が気にかかった。
そう言えば、ノースでも同じことがあったと聞いた。
あの2人、女子供を塔から連れ戻そうとしているのか・・・・?
だとしたらあの2人だけだと何かあったら・・・・・・。
それに城に行った女子供達を止めないと・・・・・!
「よし、分かった!」
ケントは大声を上げると、辺りの男達に向かってさらに声を上げた。
「一緒に行こう。まずは城にいる女子供達を止めないとならない。一緒に城へ行ってくれるか?」
男達の賛同の声が次々と上がると、ケントは深くうなづきながら
「分かった。今から準備をする・・・・・お前達も城に行く準備をするんだ」とアジトに入って行った。
しばらくして大広間の天井に再びエルドが姿を現した。
ユースはまだ戻っていないのか、姿が見えない。
ユース、まだ戻ってきてない・・・・・・。
何か見つけたのかしら。
エルドは辺りを見回しながら、ユースを探そうとその場から姿を消した。
一方、大広間の右側を移動しているユースは天井からある通路を見降ろしていた。
その通路は大広間へと通じており、奥は行き止まりになっている。
あの通路、どこに通じているのかしら。
奥の方から何か薄気味の悪いものを感じる。
そう思ったユースは通路の奥へ行こうとすると、そこにエルドが現れた。
「ここにいたのね。探したわ」
「エルド」目の前にエルドが現れ、少し戸惑いながらユースが聞いた「は、早かったのね。左側はどうだったの?」
「何もないわ。怪しいものは何も」
エルドが首を振りながら、後ろを振り返った「あの通路に行こうとしたの?」
「あの通路の奥から闇を感じるの。何があるのか気になるわ」
「そうね」エルドは通路の奥を見ながらさらにこう言った「でもむやみに近づかない方がいいかも・・・・なんだか強い力を感じる」
「そうね。今は止めておきましょう。今はアルマスに何かあった時の事を考えないと」
「とにかくあの通路に誘導するのは止めた方がいいわ。他に場所がないか探しましょう」
エルドの提案にユースはうなづくと、2人はその場を離れた。
しばらくして2人は入口側に移動した。
大広間の右奥に出ると、ユースは地下に伸びている階段を見つけた。
「あの階段は何かしら・・・・・・」
「行ってみましょう」
エルドが階段へと移動し始めると、ユースもその後を追った。
2人が階段の前に来ると、階段の奥を見た。
階段は地下に伸びており、外からの光が奥まで入らずだんだんと暗くなっている。
「奥はどうなっているのかしら。真っ暗で何も見えないわ」とエルド
「でも、さっきの通路とは違って、何も感じないわ。ここは安全かもしれない」とユース
「なら、奥に何があるか行ってみましょう」
エルドが先に奥へと移動すると、ユースも後を追って行った。
2人が奥へ行ってみると、木製のドアが目の前にあった。
「ここ、何かの部屋みたいね・・・・・何の部屋なのかしら」
エルドがドアを見つめている。
ユースもドアを見ながら
「でも、ここは何も感じないわ。さっきみたいな闇も怪しい雰囲気もない」
「なら、何かあったらアルマスをここに連れて来ればいいわね」
「それに地下に通じているみたいだから、うまくアルマスを隠せるかもしれない」
「じゃ、何かあったらここにアルマスを誘導しましょう。そろそろアルマスのところに戻らないと」
「そうね」
2人がうなづき、アルマスのところに戻ろうと姿を消そうとした時だった。
突然ドアの中からドンドンと叩く音が聞こえてきたのだ。
「うわっ!・・・・・・何?誰かいるのかしら」
エルドが驚きながらドアを見つめている。
「どうやらそうみたいね・・・・・・」
ユースも戸惑いながらドアを見つめているのだった。
一方、大広間に響いていた女子供達の話声がいっせいに止まった。
通路からゆっくりと2人の男が大広間にやってきたのだ。
1人は頭に王冠を被った若い男、ヴェスト王。
その男の側にはニコラウスの姿がある。
ヴェスト王が十字架の横にある大きな椅子まで来ると、ゆっくりと腰を下ろした。
そして前にいる大勢の女子供達を見ている。
ニコラウスはそれを見ると、前にいる大勢の女子供達の方を向いた。
静まり返った大広間に、ニコラウスは女子供達を眺めながらゆっくりと話を始めた。
「・・・・・戦争の最中、この城に来ていただき感謝している。来ていただいたのはお前達の安全のためだ。
これから森にある塔に行ってもらう。そこなら敵にも襲われることはない、安全な場所だ。
戦争が終わるまでの間、お前達にはそこに留まってもらう」
ニコラウスの話が終わった途端、再び女子供達がざわつき始めた。
大広間が再び騒がしくなる中、シーグフリードは前にいる2人を見ている。
ノースの時と同じだ。この女子供達をあの塔に行かせようとしている。
このまま塔に連れて行くつもりなのか?
シーグフリードは椅子に座っているヴェスト王を見た。
ニコラウスの話に動揺している女子供達の様子に動じず、ただ黙って様子を見ている王。
一見何の変わった様子はなさそうだが、しばらく見ているとシーグフリードはだんだんと違和感を感じてきた。
なんだか表情が暗いように見える。
それにこの暗い雰囲気・・・・・あの2人が来た途端、なんだか不気味なものを感じる。
一体、これは・・・・・・。
シーグフリードがそう思いながら、王の隣にいるニコラウスを見た。
ニコラウスを見た途端、その違和感はさらに強く感じた。
この不気味な雰囲気、あの男からなのか?とても強いものを感じる。
それにこの不気味な雰囲気・・・・・・どこかで感じたことのあるような・・・・・・。
シーグフリードが考えていると、近くで女性の声が聞こえてきた。
「どうしても森の塔へ行かなくてはいけないの?家にいることはできないの?」
ニコラウスは声が聞こえた方を向くと、深くうなづきながら答えた。
「そうだ。家に留まることはできない。塔に行った方が安全だ」
それを聞いた女子供達の声はさらに大きくなった。
「塔に行くか行かないかは自分達で決めたい」
「体が不自由な親がいるのに、自分だけ塔に行くことはできないわ」
「塔に行くのが強制的なら行きたくない」
「家にいる方が一番安全なのに・・・・・・」
そんな中、また違った意見が女子供達の中から出始めた。
1人の女性が椅子に座っている王に向かって尋ねた。
「王様、どうしてノースと戦っているのですか?理由を知りたいです」
するとあちこちから同じ声が聞こえてきた。
「そうよ。今まで争いなんてなかったのに、一体どうして戦争なんてしているの?」
「私達に理由を話してください!理由がない戦争なんて反対です」
「今からでも戦いを止めてください!」
「ノースの人達も戦いなんて望んでいないはずです。今すぐ戦いを止めてください」
「・・・・・・・」
次々と上がる女子供達の声に王は何も動じず、黙っている。
そんな王の様子にニコラウスも黙ってその場に留まっていたが、しばらくしても女子供達の声は止まなかった。
そんな中、王に向かってこんな声が飛んできた。
「王様・・・・・少し前の王様は話好きで親しみやすかったのに、今はすっかり変わってしまった。
どうして短い間にそんなに変わってしまったのですか?」
するとその声に賛同するように、さらに次々と同じような声が上がった。
「そういえばそうだわ。少し前までは気さくな感じだったのに・・・・・・今はなんだか近寄りがたい雰囲気だわ」
「どうしてそんなに変わってしまったの?冷たい感じになってしまって」
「昔の王様がよかったのに・・・・・」
「何があったんですか?以前とすっかり変わってしまって・・・・・」
「うるさい!」ニコラウスが堪忍袋の緒が切れたかのように大声を上げ、前に出た「静かにしろ!」
大広間が騒がしくなる一方で、エルドとユースはドアの前に留まっていた。
ドアはまだドンドンという音が聞こえている。
「どうするの?ユース」
エルドがドアを見ながら聞くと、その隣でユースはエルドを見た。
「開けたいけれど、私達だけじゃ開けられないわ。大きなドアだもの」
「そうね、炎でドアを開けるのも乱暴だし・・・・・・・」
「それだとドアの向こう側にいる人を危険にさらすことになるわ。火事になるかもしれない」
「じゃ、どうすればいいの?」
「しっ・・・・・・」ユースが何かを感じたのか一瞬後ろを振り返った「気配を感じるわ。誰か来る」
2人が姿を消すと、すぐに数人の男達が階段を下りてきた。
ドアの前で止まるとドアを叩いている音が聞こえてきている。
「ケントさん、中に誰かがいるみたいですが・・・・・」
男が手前にいるケントに声をかけると、ケントはドアに右耳を当てた。
「・・・・・確かに、中に誰かいるな」
ケントはドアノブを掴んで開けようとするが、カギがかかっているのか開かない。
「カギがかかっていて開かない。中からも開けられないのか・・・・?」
ケントが何度もドアノブを回そうとするが動かない。
「どうしますか?」と男
「こうなったら力ずくで開けるしかないだろう。体当たりするぞ」
ケントはドアから少し離れると、ドアに思い切り体当たりをした。
ドンという大きな音がしたが、ドアは開かなかった。
「何度かやれば開くはずだ!力を貸してくれ」
ケントの言葉に数人の男達が加わり、入れ替わり立ち代わりで次々とドアに体当たりをしていく。
しばらくしてようやくドアが開くと、中からゆっくりと誰かが出てきた。
「え・・・・・・!?」
ケントがその人物を見た途端、驚きの表情を隠せなかった。
大広間では女子供達の声がさらに大きくなっていた。
「静かにしろ!お前達、私の声が聞こえないのか?」
ニコラウスが声を荒げるが、女子供達の声が止まることはなかった。
「今すぐ戦争を止めろ!」
「戦争反対!」
「戦争を止めると王様が言うまでここから動かない!」
そんな女子供達の中でシーグフリードもニコラウスを見ていた。
あの男、なんだか焦っているようだ。いらだちを感じる。
次はどう出るか・・・・・・・。
すると隣にいるフーゴがシーグフリードを見て小声でつぶやいた。
「・・・・なんだか面倒な事になっているな」
「ああ、そうだな」シーグフリードはうなづいた「これからどうなるか・・・ところであの男は何なんだ?」
「ああ、ヴェスト王の側近で、ニコラウスっていう男だ。教会の司祭でもあるらしいが」
「教会の司祭?」
すると前からニコラウスの大声が聞こえてきた。
「お前達、何をボケっと突っ立っている!早くこの者達を森にある塔に連れて行け!」
ニコラウスの声に、女子供達の周辺にいたヴェスト兵が戸惑いながらも動き出した。
ヴェスト兵がすぐ側にいる女子供達を連れて行こうとすると、女子供達の中から低い大きな声が聞こえてきた。
「待て!」
ニコラウスがその声に反応した。
「誰だ?女子供達の中から男のような声が聞こえたぞ」
ニコラウスが前にいる女子供達を見渡し、声の主を探している。
「探しているのはオレの事か?」
シーグフリードは顔に巻いているスカーフを外し、顔をさらした。
「シ、シーグフリード!」
隣にいるフーゴが慌てていると、シーグフリードは構わずニコラウスがいるところへと歩き出した。
それを見た女子供達はさらにざわつき、大広間はさらに騒がしくなっていった。
シーグフリードが前に移動し、ニコラウスの少し手前で止まった。
ニコラウスはシーグフリードの着ている服を見ながら
「女装をしていたのか・・・・・ところでお前は何者だ?」
シーグフリードはニコラウスの姿を上から下まで眺めた後、ニコラウスを睨みつけながら言った。
「・・・・こいつはニコラウスじゃない。偽者だ」
それを聞いた女子供達はさらにざわつき始めた。
「に、偽者だと?」ニコラウスは戸惑いながらシーグフリードに聞き返した。
「私が偽者だって?そんなデタラメを誰が信じる?」
「・・・・・・・」
シーグフリードは黙ったままニコラウスを睨みつけていると、ニコラウスがさらにこう言った。
「私が偽者だという証拠はあるのか?」
「証拠ならある!」
どこかから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
大広間にいる人達がいっせいに声がした方を向いた。
そこには数人の男達と、ケントと2人の男に体を支えられた白い服を着たニコラウスの姿があった。
ケント達はニコラウスを支えながら、ゆっくりと前へと移動して行く。
ニコラウスが2人いると知り、人達は戸惑った。
ケント達はシーグフリードの後方まで来ると止まった。
「こっちが本物だ。ずっと大広間の奥にある地下に閉じ込められていたんだ」とケント
するとケントの隣にいるニコラウスがうなづきながら、シーグフリードの側にいるもう1人のニコラウスを指さした。
「・・・・あいつは偽者だ。私はあいつに騙されて、ずっとあの部屋に閉じ込められていたんだ」
「2人ともそっくりだ、どっちが本物なの?」
アルマスの側でホーパスが2人のニコラウスを見ている。
アルマスも黙ったまま前にいる2人のニコラウスを見ていると、エルドとユースが現れた。
「あ、今になって出てきた。どこかに行ってたの?」
2人を見た途端、ホーパスが気がついて2人を見た。
「え?う、うん。ちょっとね」
戸惑いながら答えるエルドに対し、ユースはホーパスに構わず落ち着いて前を見ながら
「シーグフリードの後ろ・・・・王様の側にいる方が偽者よ」
「え、そうなんだ。でもどうして分かるの?」とホーパス
「あの偽者から不気味なオーラを感じるの。ケントの側にいる方からは何も感じないわ」
「不気味なオーラって?」
「オーラというか、とても深い闇を感じるわ・・・・・少し厄介な相手かもしれない」
一方、シーグフリードは側で椅子に座ったまま動かないヴェスト王に疑問を感じていた。
辺りがこんなに騒がしいのに、動こうともしない・・・・・・。
王であれば城内で何か異変があればすぐにでも解決しようと動くはずだ。
それにこんなに多くのヴェスト兵がいるのに、命令のひとつさえも出さない。
一体、どうなっているんだ・・・・・・。
するとシーグフリードと対峙しているニコラウスが言った。
「お前、なぜ私が偽者だと言うのだ?どうして私が偽者だと言い張る?」
シーグフリードはニコラウスを見ると、再びニコラウスの頭から足先までを眺めた。
そしてニコラウスの顔を見ると、ゆっくりとこう言った。
「・・・・他の者はみんなこの大広間の灯りで影ができている。なぜお前だけその影がないんだ?」
「影だと?」
ニコラウスは聞き返した後、下の床を見た。
床にはシーグフリードや椅子に座っているヴェスト王の黒い人型の影が映っているが、ニコラウスだけその影がない。
それに気がつくと、ニコラウスはうろたえた。
「うっ・・・・・・・・」
それを見たシーグフリードは右手を腰に当てた。
剣に手をやったつもりだったが、ワンピースを着ていることに気付き、さっと手をワンピースの下に移した。
そしてその手が剣の柄をつかんだと思うと同時に、ニコラウスに対してこう断言した。
「オレはお前に会ったことがある。オレにとってとても憎たらしい相手だ・・・・・お前はモルケだ!そうだろう?」
するとニコラウスは不気味な笑みを浮かべ、笑い始めた。
「・・・・よく分かったな」
そう言い終わると、ニコラウスの姿はたちまち黒い服に赤い目をぎらつかせたモルケの姿に変わった。
モルケの姿を見た途端、大広間は悲鳴にも似た女子供達の声がところどころで聞こえてきた。
「モルケ・・・・・・!」
シーグフリードは剣の柄を掴んだまま、目の前にいるモルケを睨みつけるのだった。