赤い花
3人は村を出た後も、馬に乗らず歩き続けた。
いつどこで敵からの攻撃に合うか分からないからだった。
いつ襲われるか分からない不安を抱えながら、3人は途中何度も休憩をしながら
次の村へ向かってひたすら歩き続けた。
夜になり、空には無数の星と大きな満月が出ていた。
3人はまだ村には着いておらず、道を歩き続けていた。
「今日も大きな月が出てるね」
ホーパスが空に浮かんでいる満月を見上げている。
「そうだね」アルマスも空を見上げている「昨日よりきれいに見えるよ。雲がないからかな」
「確かにそうだな。昨日は雲が出ていたから」
シーグフリードは前を向いたまま話しだした。
「それより今夜は村に着きそうにない。そろそろ今夜寝れる場所を探そう」
「え・・・・・?村まではまだ遠いの?」
それを聞いたホーパスが前を歩いているシーグフリードに聞くと、シーグフリードは後ろを振り向いて
「着くまではまだ距離がある。馬に乗って行っても今日中には着かない」
「そうなんだ。じゃ今夜は外で寝るんだね」
「お前は外で寝たことはないのか?」
「僕は幽霊になる前は野良猫だったから、外で寝るのは当たり前だったけど・・・・・」
するとシーグフリードはアルマスを見た。
「お前はどうなんだ?アルマス。野宿したことはあるのか?」
「僕は野宿はしたことはないです」
アルマスは首を横に振った「でも、野宿は嫌じゃない」
「それなら、この辺りで野宿をしよう。あの森に入って行って安心できるところを探そう」
シーグフリードはいったん立ち止まると、馬を連れすぐ右側に広がっている木々の中へと向かって行った。
しばらくして3人は森の切れ目の開けた場所を見つけ、そこを野宿する場所にした。
馬は木の側に留め、シーグフリードは集めてきた小枝や葉を火で燃やし、その上に小さな鍋がある。
アルマスはその後ろでシーグフリードにもらったパンとスープが入っているカップで食事をしていた。
ホーパスはアルマスの隣に置かれているカップに入っているスープをちびちびと飲んでいる。
「美味しいか?」
シーグフリードが後ろにいる2人に聞くと、アルマスが答えた。
「はい・・・・スープも温かくてとても美味しいです」
「そうか。口に合ったようでよかった」
「ところで・・・・次の村まであとどのくらいかかるんですか?」
アルマスが話を変えると、シーグフリードは振り返り
「そうだな・・・・明日の朝ここを出れば、昼頃には着くと思う」
「そうですか・・・・僕達はどこへ行こうとしてるんですか?」
「エストヨーデンだ」
「エストヨーデン・・・・・・?」
村名を聞いてもよく分からないアルマスに、シーグフリードは少し戸惑った。
「おいおい、もしかしてここがどこなのかも知らないのか?」
「はい」アルマスはうなづいた「ここに来たのは初めてなので・・・・・・」
シーグフリードはさらに戸惑いながら聞いた。
「ところでお前はどこから来たんだ?」
「僕は・・・・・・」
アルマスは答えようとしたが、途中でどう答えればいいのか分からなくなった。
どこから来たのか・・・・・・。
ヴィンドから来たって言えばいいのか、それとも・・・・・。
「どうした?どこから来たのかも分からないのか?」
シーグフリードがさらに聞くと、アルマスは素直に答えることにした。
「・・・・ヴィンドから来ました。ここがどこなのかよく分からなくて」
「ヴィンド?聞いたことのない場所だな」
「・・・・・・」
「国名かどうかは分からないが、遠いところから来たんだな」
「は、はい・・・・・・・」
「それはいいけど、僕達が数時間前までいたところはどこなの?」
アルマスが戸惑っていると、そこにホーパスが割り込んできた。
シーグフリードはホーパスを見ながら答えた。
「さっきまでいたところはセーデーヨーデンというところだ」
「セーデーヨーデン?」
「そうだ。この国はヨーデンという国だ。4つの村に分かれている。厳密に言えば5つかもしれないが・・・・」
「5つかもしれないというのはどういうこと?」
「地図を持ってこようか・・・・・」
シーグフリードは地図を持ってこようと、荷物がある馬のいる場所へと歩き出そうとした。
しかし2,3歩歩いたところで立ち止まった。
「地図を見るには暗すぎるな。明日エストヨーデンに着いてから説明しよう」
「え、明日?」とホーパス
「地図を見ればすぐに分かるが、今ここで広げても暗くて見えないだろう。明日にしよう・・・・
明日の朝も早い。食事が終わったらそろそろ寝た方がいいぞ」
「何だ、つまらないの」
「明日も早いんですね。じゃそろそろ寝ます・・・・・行こうホーパス」
少し拗ねているホーパスに、アルマスはなだめるようにホーパスに声をかけるのだった。
2人がその場を離れると、シーグフリードは燃えている火を見ているのだった。
次の朝。
食事を終え、3人は出発しようと荷物をまとめていた。
「荷物はこれで全部入れたよね?」
アルマスが外に出していた荷物を袋に入れると、近くをフワフワ飛んでいるホーパスに聞いた。
ホーパスは辺りを見回しながら
「もう外に出ているものはないよ。忘れ物はもうないんじゃないかな」
「じゃ、袋の口を閉めるよ」
アルマスは持っている袋の口を紐で閉めると、荷物が入っている袋を持ち上げた。
そして馬がいる場所へ移動しようと後ろを振り返った。
するとシーグフリードがアルマスに近づいてきた。
「重たいだろう。オレが運ぶから渡してくれ」
「大丈夫ですよ。そんなに重くないですから」
アルマスが荷物を持ったまま移動しようとするが、シーグフリードは首を振った。
「でも馬の背中に荷物を乗せられないだろう。無理をするな。オレが運ぶ」
「そうですか?それなら・・・・・」
アルマスは荷物をシーグフリードに渡すと、近くに置かれているものに目が入った。
剣が入っている細長い革の袋だった。
アルマスが剣を運ぼうと近づいた時、突然シーグフリードが大声を上げた。
「それには触るな!」
アルマスが驚いて、その場を動けないままシーグフリードを見ると、シーグフリードははっと気がついた。
「・・・・大声を上げてすまない。その剣は子供には重すぎる。ケガでもしたらと思って声を上げてしまった」
シーグフリードはアルマスに謝ると、剣が入った革の袋を持って馬がいる場所へと歩いて行った。
シーグフリードが離れて行ってしまうと、ホーパスがアルマスのところに降りてきた。
「あの剣、何かあるのかな?全く触らせてもらえないね」
「うん。あの剣は大きいから重いだろうけど・・・・荷物が入ってる袋ほどじゃないと思うし」
「それにあの人、別に腰に同じくらいの剣をつけてるし。2本も同じような剣を持ってるなんて・・・・」
「予備で持ってるのかもしれない。でも・・・・何かありそうだね」
馬の背中に荷物を乗せているシーグフリードを見ながら、アルマスは剣に何かあるという疑問を持つのだった。
それから数時間後。
3人はエストヨーデンという村に入った。
村に入ったとたん、辺りには多くの人々が行き交い、また多くの花々が目につく。
「あちこちに花があるよ。きれいな花ばかりだね」
ホーパスがすぐ横にある植木鉢の花々を見ている。
アルマスも辺りを見回しながら
「花も多いけど、人が多いね。とても賑わってる」
「ここはヨーデンの中でも一番平和な村だ。国王もここに城を構えている」とシーグフリード
「え、王様がここに住んでるの?」
ホーパスがシーグフリードを見ると、シーグフリードはうなづきながら
「ああ、ここは昔からヨーデンの中で中立を保っているところだ。一番安全な場所だから国王もここに城を築いたと思っている」
「他のところは安全じゃないの?」
「他は・・・・・話は後にしよう。これから仲間のいるアジトへ向かう」
シーグフリードは再び前を向くと、3人は黙って歩き続けた。
しばらくして3人はある1軒の家に入った。
家の前にはシーグフリードが連れた馬が止まっている。
シーグフリードとアルマスが椅子に座っていると、部屋に1人の男性が入ってきた。
茶髪の短髪で、背が高く体格のいい男性はシーグフリードの姿を見たとたん声をかけた。
「シーグフリード、久しぶりだな」
「イェスタ、久しぶりだ」
シーグフリードはイェスタの姿を見たとたん、立ち上がりイェスタに近づいた。
そして2人で嬉しそうに抱き合うと、シーグフリードはイェスタに聞いた。
「ところで最近どうなんだ?村の様子は」
「それなんだが、ちょっとした問題があって・・・・・」
「その前に、村の者から連絡があったと思うのだが、この村に例の塔があると聞いた。今もあるのか?」
「連絡はあった。あの塔か・・・・ここでずっと立ち話もなんだから、向こうで座って話をしよう」
イェスタはそう言った後、テーブルの側にいるアルマスを見た。
イェスタは再びシーグフリードの方を向いた。
「ところであの子供は?」
「ああ。オレと同じ塔を探していると言うので連れてきた。アルマスだ」
シーグフリードがそう言うと、話が聞こえていたのかアルマスが席を立った。
シーグフリードはそれに気がつくと、イェスタを連れてアルマスの前まで移動した。
「アルマス、エストヨーデンの仲間でここのリーダーのイェスタだ」
「イェスタです。ようこそエストヨーデンへ」
イェスタがアルマスに向かって右手を差し出すと、アルマスはその手を右手で取りながら
「アルマスです」と挨拶をした。
3人が席に着くと、シーグフリードはイェスタに再び聞いた。
「それでさっきの話だが、塔はまだここにあるのか?」
するとイェスタは首を横に振った。
「少し前まではあったんだが、突然なくなってた。跡形もなくきれいさっぱりとな」
「そうか・・・・・来るのが遅かったか」
シーグフリードはがっかりした様子で肩を落とした。
イェスタはそんなシーグフリードを見て
「あの塔に何かあるのか?塔を探しているようだが」
「ああ・・・・でも、もう消えたのなら仕方がない。塔が来ないように処置をしよう」
シーグフリードは顔を上げてイェスタを見た。
「ああ、それには賛成だ。でもな・・・・・・その前になんとかしなければいけないことがある」
「さっき話していた事か。どういうことだ?」
「実は塔が消えた後、そこに大きな花が咲いた。誰かがそこに種を蒔いたのか、植えたのかは分からないが・・・・
その花が問題を起こしているんだ」
「え・・・・・?花?」
シーグフリードが戸惑いながら聞き返すと、イェスタはうなづきながら答えた。
「ああ、それがとんでもない花で・・・・近づいてきた者はすぐにその花に襲われて命を落としている」
それを聞いたシーグフリードはさらに戸惑った。
「なんだって・・・・・・それは消えた塔と関係があるのか?」
「それは分からない」イェスタは首を振った「でも塔が消えた後、すぐあの花があったんだ・・・・何かあるのかもしれない」
「それはなんとか取り除かなければ。この事は国王は知っているのか?」
「ここ数日、花がある場所に警官がいる。知っていると思うが・・・・・今のところ動きはない」
「それはどんな花なんだ?大きいのか?」
「見に行けばすぐに分かる。今どんな状況なのか見に行こう」
イェスタに連れられて3人は塔があった場所へ向かった。
村の奥にある林を抜け、開けた場所に出ると、少し先の右端に誰かが倒れているのが見える。
「誰か倒れてる・・・・・小さい女の子みたいだ」
ホーパスが見つけると、倒れている子供のところへと移動した。
イェスタも倒れている子供を見ながらつぶやいた。
「またか・・・・・あの花の仕業だ」
「ところでその花はどこにあるんだ?警官もいないようだが」
シーグフリードが辺りを見回していると、ホーパスの声が聞こえてきた。
「ねえ、起きて!大丈夫?起きてよ!」
「ホーパス、様子はどうなの?」
アルマスが倒れている子供のところに近づくと、ホーパスがアルマスを見た。
「ダメだ。何度声をかけても返事がないよ」
アルマスが子供を見ると、小さな女の子が青い顔で眠っているように倒れている。
口元がかすかに開いており、そこから血が出ていた。
アルマスは女の子が死んでいると確信した。
「・・・・たぶん、死んでいると思う」
「そんな・・・・・・」
2人で女の子を見ていると、後ろから誰かの声が聞こえてきた。
「あそこだ!」
アルマスとホーパスがシーグフリード達がいる場所に戻ると、シーグフリードとイェスタが左側を見ている。
2人も左側を見ると、数メートル先に大きくて赤い花が一輪咲いているのが見えた。
シーグフリードは花を見ながらイェスタに聞いた。
「あの赤い花がそうなのか?」
「ああ、あの花だ。あの花がある場所に塔があったんだ」とイェスタ
「そうか。ここから見えるなら近くだともっと大きいだろう。近くで見たい」
「待った!それは止めたほうがいい」
シーグフリードが花の近くに行こうと動こうとした途端、イェスタが前に出て止めた。
そしてシーグフリードを見ながら
「近づいたらすぐに取り込まれる。遠くから様子を見た方がいい」
「しかし、それだとどんな花なのか・・・・・ここからだとよく分からない」
「それは分かるが、あの大きな花びらが人を取り込んで、そのまま人を食べるらしい・・・・だから近づかない方が」
イェスタが首を振りながらシーグフリードを止めようとした。
しかしシーグフリードはそれには応じず
「なら、様子を見ながら少しずつ近づいてみればいい。花が動いたら逃げよう」
「え、あ、シーグフリード!戻って来い!危険だぞ!」
イェスタの制止を振り切り、シーグフリードはゆっくりと赤い花に向かって歩き始めた。
シーグフリードは赤い花にだんだんと近づいて行った。
近づくにつれ、花がだんだんと大きく見えてきている。
今のところ、向こうから襲ってくる気配はなさそうだが・・・・・。
もう少し近づいてみるか。
シーグフリードは右腰につけている剣に右手を添えながら、花へと歩き続けている。
そんなシーグフリードの後をイェスタとアルマス、ホーパスが追っていた。
「どんどん近づいて行ってるけど、大丈夫なのかな」
ホーパスがアルマスの真上でシーグフリードを見ている。
「今のところ、何もなさそうだけど・・・・・」とアルマス
「おい!シーグフリード!それ以上は近づかない方がいい」
イェスタはシーグフリードに大声を上げた「気をつけろ!それ以上近づいたらやられるぞ!」
「今のところは大丈夫そうだ。動きもしない」
シーグフリードが後ろにいる3人の方を振り向き大声で返すと、再び前を向きさらに近づこうとした。
シーグフリードは何かを察したのか、突然立ち止まった。
何かが動いたような気が・・・・・・。
剣を抜き、シーグフリードが剣を花に向けた時だった。
突然剣を持っている右腕の手首を何かにつかまれたのだ。
「何・・・・・・!?」
シーグフリードが右の手首を見ると、緑色のつるのようなものがだんだんと巻きついてきている。
シーグフリードが前を向くと、そのつるは大きな花の方から伸びてきている。
さらにそのつるはシーグフリードの右腕を引っ張るように、花の方へ動き出した。
シーグフリードは持っている剣を地面に落とし、その場から動かないようにこらえている。
「シーグフリード!どうしたんだ!?」
後ろからイェスタの声が聞こえてくると、シーグフリードは後ろを振り向いた。
「花のつるが右手に巻きついてきた・・・・・ものすごい力だ」
「何だって?そこから動くんじゃない!今助けに行く」
それを聞いたイェスタは右腰につけている剣を抜くと、シーグフリードのいる場所へと走り出した。
シーグフリードは花に引き寄せられまいと、その場から動かないように耐えていた。
しかしつるの力は強く、だんだんとシーグフリードの足が花へと近づいて行く。
なんて力だ。このままだと花に引き寄せられる・・・・・!
シーグフリードが必死に耐えていると、そこにイェスタがやってきた。
イェスタは花から伸びているつるを持っている剣で切り落とすと、シーグフリードを見た。
「シーグフリード!大丈夫か?」
「あ・・・・・ああ。大丈夫だ。ありがとうイェスタ」
シーグフリードは切られたつるを右手首から外すと、落ちている剣を拾った。
イェスタが花を見ると、花からさらに多くのつるが出てきているのが見える。
「このままここにいるとまずい。ここはいったん逃げよう」
イェスタが花を見ながら後ろへ後ずさりすると、シーグフリードもうなづきながら
「ああ。その方がよさそうだ・・・・・・」
「みんな、逃げるぞ!いったんここから離れるんだ!」
イェスタが花に背を向けて走り出すと、あとの3人もいっせいに逃げ出した。
複数のつるを伸ばしかけていた花は、たちまち誰もいなくなるとそのつるをゆっくりと引っ込めるのだった。
花から逃れた4人は林を抜け、村の家々が見えてきたところで立ち止まった。
イェスタは息を荒くしながら林の方を見た。
「ここまで来れば大丈夫だ・・・・・・花のつるもここまでは追ってきてない」
シーグフリードも息を荒くしながら
「しかし、あの花・・・・・とんだ化け物だ。もう少しでやられるところだった」
「シーグフリード、ケガはないか?大丈夫なのか?」
「ああ、大丈夫だ」
心配そうにシーグフリードを見ているイェスタにシーグフリードはうなずいていると、ホーパスが林の方を見ながら
「でも、どうするの?近づいたらあの花にすぐ食べられそうだし・・・・・」
「ああ、うかつには近づけないな。どうすればいい」
シーグフリードがイェスタの方を見ると、イェスタは考えながらつぶやいた。
「こうなったらあいつに聞いてみるか・・・・・・」
「あの花について知ってるやつがいるのか?」
「いや、そうじゃないが、城の側にある植物園で植物の研究をしている知り合いがいるんだ。そいつに聞けば何か分かるかもしれない」
「なら、植物園に行こう」
3人はイェスタに案内され、城の側にある植物園に向かった。
城の側には庭園が広がっており、そこには様々な植物や色とりどりの花が咲いている。
「うわあ。きれいな花がたくさんあるね」
ホーパスが辺りを見回しながら、アルマスの周りをふわふわと移動している。
「うん、それにとても静かだ・・・・・それに広いし。ここだけ別の場所みたい」
アルマスも辺りを見回しながら庭園の広さに驚いている。
それを聞いたイェスタは前を向いたまま
「ここは王様自慢の庭園だからな。とても管理が行き届いている。王様が毎朝ここを散歩しているらしい」
「そうか。それならなかなか手を抜けられないな」とシーグフリード
「ああ、広すぎて管理が大変らしい・・・・・あの高いガラス張りの建物が植物園だ」
イェスタの言葉に3人が前を向くと、数メートル先に丸いドーム型のガラス張りの建物が見えた。
しばらくして植物園に入ると、4人はある部屋に案内された。
イェスタが部屋のドアをノックすると、中から1人の白衣を着た背の高い男性が出てきた。
「イェスタじゃないか。一体どうしたんだ?」
「久しぶりだな、クヌート」
イェスタは挨拶を交わすと続けてこう言った。
「ちょっと相談があるんだ。中に入ってもいいか?」
「いいけど・・・・・その人達は?」
クヌートがシーグフリード達を見ているとイェスタは後ろにいる3人を見て
「ああ、知り合いだ。中に入ってもいいか?」
「いいですよ。どうぞ」
4人は部屋の中に入ると、クヌートは部屋のドアを閉めた。
部屋には大きな机がいくつも並んでおり、その上にはビーカーや機械のようなものが所狭しと並んでいる。
クヌートは4人の前に行くと、イェスタに聞いた。
「それで、相談というのは?」
「林を抜けたところに高い塔があったのは知ってるな?」とイェスタ
「ああ、あの塔・・・・・もうなくなったと思うけど」
「塔がなくなったところに大きな赤い花が咲いてるのは知ってるか?」
「ああ、知ってるよ」クヌートはあっさりとうなづいた「あの花の件で何度も警察と一緒に行った」
「さすがだな。そうなると話が早い。あの花について何か調べているのか?」
クヌートの言葉にイェスタが思わず身を乗り出すと、クヌートは平然とうなづきながら答えた。
「今調べてるけど、今まで見たことのない珍しい花だ」
「さっきあの花のところに行ったが、隣にいるシーグフリードが花のつるに捕まって襲われそうになった。
このままあの場所にあるのは危険だ。どうすればあの花を取り除ける?」
「あの花か・・・・・・・警察もいろいろとやっているみたいだが、上手くはいってないみたいだな」
クヌートが気難しい表情をしながらため息をついた。
シーグフリードはクヌートを見ながら
「あの花を駆除するのは難しいのか?」
「いや、難しくはない・・・・・地面から引っこ抜ければ一番いいんだが、あの大きさだとそれは難しい」とクヌート
「それは無理だ。それにうかつには近寄れない。もっと手っ取り早い方法はないのか?」
「それなら火で焼いてしまった方が早い。研究している者としてはとても惜しいけど・・・・・」
「火か。でもそれなら近くで火をつけないと。厳しくないか?」とイェスタ
「近くだとつるに捕まる。できれば遠く離れたところから火を放った方がいい。それで燃やしてしまえば」
「しかし、それだとかなり時間がかかる。他に方法はないのか?」
「今のところは火で燃やした方が一番早い・・・・それしか方法がない」
クヌートがそう言った後、誰からも意見が出なくなり辺りが静かになった。
しばらくするとイェスタがクヌートに聞いた。
「さっきあの花を調べていると言ってたが、花びらか何か取ってきているのか?」
クヌートはうなづきながら
「警察と行った時に地面に花びらが落ちていた。今はそれを調べているよ」
「そうか・・・・・何か分かったら教えてくれ。今日はこれで帰るよ」
イェスタはクヌートに背を向けると、そのままドアの方へと歩き出した。
あとの3人もイェスタの後に続くようにドアへと動き出すのだった。
それからイェスタの家に戻った3人は、そのまま泊まることになった。
夜になり、食事を済ませたアルマスとホーパスはシーグフリードとは別の部屋で過ごしていた。
「明日はどうするんだろう?しばらくはここにいていいってイェスタさん言ってたけど」
ホーパスがベッドに座っているアルマスの隣で聞いた。
アルマスはホーパスを見ながら
「分からない。何も聞いてないから・・・・・ホーパスは何か聞いてる?」
「ううん、聞いてないよ」ホーパスは首を振った「またあの花のところに行くのかな?」
「どうだろう。花をどう取り除くかって2人で話をしていたけど」
「植物園の人、火で燃やせばいいって言ってたよね・・・・・あっ!」
ホーパスが何か思いついたのか、途中で大声を上げた。
アルマスはその声に戸惑いながら
「ど・・・・・どうしたの?ホーパス」
「思い出した!アルマスの火の力があるのを。アルマスが火であの花を燃やせばいいんだよ!」
ホーパスの意見にアルマスは戸惑った。
「で、でも・・・・・」
「どうしたの?アルマス。暗い顔して。アルマスは火が出せるじゃない」
「でも今は炎の指輪がないよ。それにここに来てから火を出したことがないし」
「あ、そうか・・・・・時の女神がどこかに隠したんだっけ」
「どこに隠したのか分からないし。火を出せるのかどうか分からないよ」
「なら、今ここで火が出せるのか試してみようよ」
「ここで?」
アルマスがホーパスに聞き返すと、ホーパスは辺りを見回しながら
「あ、そうか・・・・・ここだと火を起こしづらいよね」
「ここだと危ないから、外でやってみるよ・・・・・火を出せるのかどうか分からないけど」
アルマスはあまり気乗りしないままベッドから立ち上がった。
ホーパスはその場から上へと上がりながら
「外だと夜だから誰もいないと思うよ。やってみよう」
アルマスが部屋を出て行くと、ホーパスも続いて部屋を出て行くのだった。
2人が外に出ると、夜空は雲ひとつなく、無数の星々が瞬いている。
「うわあ。今夜の夜空もきれいだね」
ホーパスが夜空を見上げていると、アルマスは辺りを見回している。
それを見たホーパスがアルマスに聞いた。
「どうしたの?アルマス」
「いや・・・・誰もいないかなと思って。もし火が出たら危ないから」
アルマスは辺りに人がいないかどうか気になっていたのだ。
するとホーパスも辺りを見回しながら
「夜だから、みんな家の中にいると思うよ。気になるんだったら裏でやってみようよ」
「そうだね。裏に行こう」
2人が家の裏側に行くと、そこにはシーグフリードの姿があった。
シーグフリードは2人を見かけると声をかけた。
「どうした?こんな時間に外に出て・・・・・・眠れないのか?」
「い、いえ・・・・・」シーグフリードがいるとは思わず、アルマスは戸惑った「シーグフリードさんはどうしてここに?」
「オレは・・・・ただ夜空を見に来ただけだ」
シーグフリードはそう言うと夜空を見上げた。
するとホーパスがそれに合わせるようにシーグフリードに近づきながら
「そ、そう。空の星がきれいだから外に出てみようって僕がアルマスを誘ったんだ、ね?アルマス?」
「う、うん。そうです」
ホーパスに振られて慌ててうなづくアルマス。
するとシーグフリードは空を見上げたままつぶやいた。
「そうか。お前達も星を見るのが好きなのか・・・・あいつと同じだな」
「え?」とホーパス
「いや、何でもない」シーグフリードは夜空からホーパスに目を移した「もう遅いから、そろそろ寝た方がいいぞ」
シーグフリードが移動しようと歩きだすと、アルマスの声が聞こえてきた。
「明日もまたあの花のところに行くんですか?」
「分からない」
シーグフリードは立ち止まり、アルマスを見て首を振った。
「イェスタが今、どうするか考えている。さっきまで話をしていたが、どうやって火を起こすか・・・・」
「それで、どうするんですか?」
「イェスタの考え次第だ。何か考えがあれば、明日それを実行するかもしれない」
「・・・・・・・」
「それにしてもあの花はただの花じゃない。とんでもない化け物だ。もう少しであの花にやられるところだった。
なんとかしてあの花を取り除かなければ」
「大丈夫なの?イェスタさんに任せておいて」とホーパス
「イェスタは今まで何度も苦難を乗り越えてきている。今回も大丈夫だ。明日何も思いつかなければみんなで考えよう。
もう今夜は休んだ方がいい。家の中に入ろう」
シーグフリードが再び歩き始めると、アルマスとホーパスはどうするか顔を見合わせている。
するとシーグフリードが2人の方を振り向いた。
「どうした?中に入らないのか?」
「あ、は、はい・・・・・もう少し星を見てから戻ります」
アルマスが慌てて答えると、シーグフリードは黙ったまま家の中へと歩いて行くのだった。
次の日。
薄暗い曇り空の中、4人は外に出ると、そこには数十人の男達が集まっている。
「この人達は?」
シーグフリードが男達を見ながらイェスタに聞くと、イェスタはシーグフリードの方を向いた。
「ああ、こいつらはみんな仲間だ。火を起こすために集まった」
「火を起こすためだって?どういうことだ?」
シーグフリードがイェスタを見ると、イェスタはうなづきながら
「花から離れた場所に火を起こす。焚火をするんだ。それで火を太い木に点けて、花に向かって投げる」
「・・・・・・それで花を焼こうっていうのか。大丈夫なのか?」
イェスタの話を聞いたシーグフリードは原始的な方法に不安になった。
イェスタはそれでも自信ありげな表情で
「これでも考えたんだ。原始的なやり方だが、これしか方法がない。とにかくあの花を燃やすしかない」
「それはいいが、火を投げた途端、強い風が吹いて林に火が点いたらどうするんだ?」
「今は風は吹いてない。無風だ」
イェスタは風が吹いているか右手を上に上げるが、無風なのかすぐに右手を下げた。
「確かに今は吹いてないが、いつ風が吹くか分からない」
「まあ・・・・・せっかく集まったんだ。やるなら早い方がいい。これ以上被害が出ないうちにあの花を燃やしてしまおう」
「・・・・・・・」
「みんな集まったな?今から林に行くぞ!あの大きな花を燃やすんだ」
イェスタが男達に声をかけると、男達の中へと行ってしまった。
イェスタを先頭に男達が歩き出すと、その後をシーグフリード達が追うように歩き出した。
ホーパスは前を歩いている男達を見ながら
「大丈夫なのかな?焚火の火で燃やすって話してたけど」
「分からない。でも・・・・・やってみるしかないよ」とアルマス
するとホーパスはアルマスに近づいて小声で囁いた。
「昨日あれから何度もやってみたけど、火が出なかったしね・・・・・・」
「・・・・・うん、でも仕方がないよ。力を封じられているんだから」
アルマスも小声で話していると、シーグフリードが2人を見て割り込んで来た。
「ん?何の話をしているんだ?」
「い、いや・・・・・・あの」
シーグフリードを見たアルマスが慌てていると、ホーパスがこう切り出した。
「た、焚火の火を遠くから投げるって危なくないのかなって思って」
「ああ、とても危ない行為だ」シーグフリードはうなづきながら続けた。
「それに風が吹いたら林に火が燃え移る可能性がある。そうなったらすぐに火を消せない。最悪の事態だ」
「そ、それにだんだん空が曇ってきてるよ、雨が降りそう」
ホーパスが空を見上げていると、アルマスも空を見上げながら
「そ、そうだね・・・・・雨が降る前に終わればいいけど」
「雨が降ったら火を消してしまうから、中止になるんじゃないの?今から止められないのかな」
シーグフリードは前にいる男達を見ながら
「今さら止められないだろう。不安はあるが・・・・・とりあえずやってみるしかない。やる前に雨が降ればいいが」
「・・・・・・」
不安をぬぐい切れないまま、シーグフリード達は花のある林へと向かっていた。
空はさらに薄暗い雲が立ち込め、だんだんと暗くなってきていた。