目覚め


イェスタを先頭にシーグフリード達は林を抜けたところで止まった。
数メートル先には赤い花が見えている。
イェスタはシーグフリード達がいる方を振り返ると、大声を上げた。
「みんな、木の枝や葉を集めるんだ!ここで焚火をして火を起こす」
するとシーグフリードがイェスタに近づいてきて聞いた。
「ここで火を起こすのか?あの花までまだかなりの距離があるぞ」
「ああ、ここで火を起こして、あの花に向かって火を投げる」
「火を投げるだって?ここからか?」
シーグフリードが戸惑っていると、イェスタはうなづきながら
「ああ。あの花のつるはここまで届かないだろう?だからここから投げるしかない」
「しかし・・・・・ここからだと遠すぎる。辺りには木々はないが、何かあったら・・・・」
「今にも雨が降りそうだ・・・・雨が降ってこないうちにやるしかない」
イェスタは空を見上げると、シーグフリードの右肩を軽く叩いた。
そして集まっている男達に向かって声を上げた。
「雨が降ってこないうちにやろう。木と葉を集めてくるんだ」



男達が辺りから落ちている木々と葉を集め、山を作ると火を点けた。
しばらくして火がある程度大きくなってくると、イェスタは持っている木の枝を焚火の火の中に入れ、火を点けた。
他の男達も次々と木の枝を焚火に入れ、火を点けるとイェスタは声を上げた。
「あの花に向かって火を投げるんだ!」



イェスタの掛け声の後、男達はいっせいに火を花に向かって投げ始めた。
しかし、やはり遠すぎるのか、投げた火は花までは届かない。
途中で地面に落ち、火が消えていく。



「なかなか花まで火が届かないね。やっぱりここからだと遠すぎるんじゃないの?」
ホーパスが焚火の近くから見ていると、シーグフリードもうなづきながら
「ああ、ここからだと届かない。弓と矢があれば届くかもしれないが、持ってきていないとは」
「そこまで考えてなかったかもしれないね・・・・あっ」
頭に何かが落ちてきたのを感じたホーパスは空を見上げた。
真っ暗な空から雨がぽつぽつと落ちてきた。



間もないうちに雨が降り始めた。
雨は焚火の中に落ち、火の勢いを消そうとしている。
男達は火を次々と花に向かって投げているが、花まで届かないどころか、雨で火が消されていく。
シーグフリードは前で火を投げているイェスタに声をかけた。
「雨が降ってきた!もう止めた方がいい」
「いや、まだだ」
イェスタは焚火に近づくと、シーグフリードを見て首を振った。
「しかし、なかなか花に火が届いてないじゃないか。もう止めた方が・・・・・・」
「ここまで来たんだ。この焚火が消えるまでやるしかない」
イェスタは持っている木の枝に火を点けると、前を向きながらこう言った。
「こうなったらもう少し近づいて投げてみよう」



イェスタはゆっくりと、恐る恐る花に近づいて行った。
そしてある程度近くまで来ると、大声を上げながら花に向かって火を投げた。



イェスタの投げた火は、花までは届かなかったものの、火の先端が花に燃え移った。
花びらの下の部分に火が点いたのを見たイェスタは声を上げた。
「火が点いた・・・・・!よし、この調子でどんどん火を投げるんだ!」
それを聞いた男達はイェスタと入れ違いに花に近づき、次々と火を投げ入れ始めた。
花びらには次々と火が点き、少しづつ燃えだしている。



しかししばらくすると、花の下の方から何かがゆっくりと出てきた。
下の花ビラの両側からクリーム色の丸いものが出てきたのだ。
「何か出てきたぞ、何だあれは・・・・・」
男達の中からそんな声が聞こえると、イェスタは花の両側にある丸いものを見た。
「何だあれは・・・・・気をつけろ!何かやろうとしているかもしれない」
イェスタが周りにいる男達に言った時だった。
花からクリーム色の丸いものがイェスタ達に向かって投げられたのだ。
「逃げろ!」



男達はいっせいに後ろに下がると、2つのクリーム色の球体が男達の手前で地面に落ちた。
地面に触れた途端、球体が破裂して爆発を起こした。
「うわっ・・・・・・!?」
イェスタと周辺にいた男達は爆風に巻き込まれ、数メートル後ろへ飛ばされた。



突然焚火の方へ飛ばされたイェスタ達を見た3人は驚いた。
「イェスタ!大丈夫か?」
シーグフリードが地面に倒れているイェスタに駆け寄ると、イェスタはシーグフリードを見た。
「大丈夫だ・・・・・少し爆風に巻き込まれただけだ」
「あの花、爆弾まで持っているのか・・・・・・!」
「そのようだな」イェスタはゆっくり起き上がると、後ろから叫び声が聞こえてきた。



イェスタとシーグフリードが花の方を振り返った。
男達が花のつるに体を巻かれ、花の方へ引き寄せられていく。
さらに花からは次の球体が放たれ、爆風に巻き込まれた男達が次々と倒れていく。
異様な光景が目の前で繰り広げられていた。



「あの花・・・・・!仲間をこんな目に遭わせるとは、もう許さん!」
イェスタは腰から剣を抜くと、花へと向かって走り出した。
「イェスタ!待て、待つんだ!」
シーグフリードがイェスタを止めようと大声で叫ぶが、イェスタは男達の中へ行ってしまった。



シーグフリードは腰から剣を抜き、花の方へ歩き出そうとした。
「イェスタさんと一緒に戦うの?」とホーパス
「こうなったら仕方がない。仲間を救うためにも戦うしかない」
シーグフリードは2人を見ると、続けてこう言った。
「2人とも、その焚火を見ていてくれ・・・・・・と言っても、もう火はほとんどなさそうだが」
「本当だ」
ホーパスが焚火を見ると、火は雨でほとんど消され、細い煙が出ている。
「もっと早く雨が降っていれば、こんな事には・・・・とにかく、ここで焚火を見ておいてくれ」
シーグフリードは花の方を見ると、足早に歩き始めた。



「行っちゃった・・・・・・アルマスはどうするの?」
ホーパスがシーグフリードの後ろ姿を見ていると、アルマスは焚火を見ながら
「とにかくこの焚火を見てるよ。でももうほとんど火はないけど」
「もう消えてると思うよ」
ホーパスは焚火を見ると、焚火の火は完全に消え、煙さえも出ていない。
積んである葉や木はすっかり雨に濡れてしまっている。
「すっかり火が消えてる。見ててもしょうがないと思うけど」
ホーパスがアルマスを見ると、アルマスは空を見上げながら
「それに雨が強くなってきた。空がすっかり真っ黒だ」
「本当だ。このままだとさらに天気が悪くなるかも・・・・・・」
ホーパスが空を見上げると、黒い雲が一面に広がり、さらに暗くなっていた。



シーグフリードが男達の中に来ると、地面には数人の男達が倒れている。
前を見ると、男の体に巻きついているつるを剣で切り落とすイェスタの姿があった。
「イェスタ!大丈夫か?」
「シーグフリード!来たのか!」
シーグフリードの声に気がついたイェスタはシーグフリードを見た。
「しかし・・・・・かなり厳しそうだな。いったん引いた方がいいんじゃないか?」
「そうはいかん」イェスタは首を振った「数人あの花に食べられた。もう我慢の限界だ・・・・あの花を倒す」
「一体どうやってだ?つるに爆弾だぞ・・・・・どうやってあの花に近づくんだ?」
「そうだな・・・・様子を見ながら近づくしか・・・・・!」
イェスタがそう言った途端、クリーム色の球体が2人に近づいてきた。
「危ない!」
2人は急いで道の両端に逃げると、地面に伏せた。
球体は2人の前を通り過ぎ、しばらくすると爆発音が聞こえてきた。



シーグフリードが地面から起き上がると、向かい側に伏せているイェスタを見た。
「大丈夫か?」
「ああ・・・・大丈夫だ」
イェスタはゆっくりと起き上がり、シーグフリードを見た。
「しかし・・・・・このままだとどうしようもないぞ。どうするつもりだ?」
「雨もひどくなってきたな」
イェスタは空を見上げた後、再びシーグフリードを見た。
「花の裏側にまわり込めば、勝機はあるかもしれないが・・・・・」
「裏側か・・・・・!?」
シーグフリードがそう言いかけ、花を見た途端驚いた表情を見せた。
イェスタが道を見ると、花から長いつるがまっすぐ伸びてきている。
「これは・・・・・・今までよりも長いつるだ・・・・・・」
イェスタがつるを見ていると、シーグフリードははっとして焚火がある方を向いた。



一方、アルマスとホーパスは完全に火が消えた焚火の山を見ていた。
長時間雨に濡れたせいか、アルマスの口から大きなくしゃみが出た。
「アルマス、大丈夫?寒くなってきたんじゃない?」
ホーパスが心配そうな表情でアルマスを見ている。
「そう言えば・・・・少し寒くなってきた。雨に濡れたせいだ」
アルマスは鼻を少しすすっている。
「ここで待ってると風邪ひいちゃうよ・・・・・向こうの木のあるところに移動する?」
ホーパスが後ろの林の方を右前足を上げて示すと、アルマスも林の方を向いた。
「林に行けば、少しは濡れなくていいかも・・・・・」
「じゃ、林に行こうよ。しばらくシーグフリードさん達戻ってこないだろうし」
「でも・・・・・・」
シーグフリードが気になるのか、アルマスが後ろを振り返った時だった。
突然、目の前に緑色のつるのようなものが飛び込んできたのだ。
「!?」



「アルマス?アルマス!?」
突然目の前が暗くなり、不安になったホーパスはアルマスの名を何度も呼んだ。
何が起きたのか分からないホーパスは、辺りを見回しながらアルマスの姿を探すが、真っ暗で何も見えない。
「アルマス、どこにいるの?アルマス!」
ホーパスはアルマスの名を呼びながら、どこかへ移動しようと上へと上がって行った。



上へと上がり、ホーパスはようやく真っ黒な雲で覆われた空に出た。
「よかった。やっと明るくなった・・・・・でも空は真っ暗だけど」
ホーパスはほっと胸をなで降ろすが、すぐにアルマスを探そうと辺りを見回した。
下を向いた途端、ホーパスは目の前の異変に驚いた。
「アルマス!?」



下ではアルマスが長く伸びている花のつるに体を巻かれていた。
アルマスの体はたちまちつるに何重にも巻かれていき、もはやアルマスの顔もつるに巻かれて見えなくなっている。
最後まで見えていた右手もつるに巻かれ、アルマスの姿がつるの中に隠れてしまった。
アルマスを取り込んだつるは丸くなり、球体に変化していく。
「アルマス!アルマス!」
ホーパスがつるの球体へ向かって突進していくが、つるに体が当たり、そこから中へは入れない。
「どうして?どうして中に入れないの?」
ホーパスが何度も球体に入ろうとするが、球体にぶつかってしまう。
「ホーパス!」
そこへシーグフリードが戻ってきた。
「助けて!アルマスを助けてよ!」
ホーパスがシーグフリードを見た途端叫んだ。
「これは・・・・・・!この中にアルマスがいるのか?」
シーグフリードが目の前にある球体を戸惑いながら見ている。
「これはひどい・・・・剣でこの球体が割れるかどうか・・・・・」
すぐ後から来たイェスタも球体を見ながら戸惑いを隠せない。
「中にアルマスがいる。とにかくやってみるしかない」
シーグフリードが右手にある剣を球体に向け、ゆっくりと上に振り上げた時だった。



突然後ろがピカッと明るくなり、消えたと思うと大きな雷鳴が聞こえてきたのだ。
「雷だ!ここにいるのはまずい!天気が荒れてきた」
イェスタが空を見上げると、所々に稲光が見えている。
「しかし、早くしないとアルマスが・・・・・・」
シーグフリードが剣を上げたまま戸惑っていると、イェスタは首を振りながら
「中でどうなっているのかは分からないが、今は自分の身を案じた方がいい。とりあえず雷が治まるのを待つんだ」
「雷が止むまで待つの?アルマスはどうなってもいいの?」
ホーパスが2人に向かって叫んだ途端、再び後ろで雷の落ちる音が聞こえてきた。
シーグフリードは上げていた剣を降ろし
「・・・・仕方がない。いったんここから離れよう。これ以上犠牲を出したくない」
「そんな・・・・・・!」
「アルマスを見捨てるとは言ってない。今は雷から身を守ることが先だ。これ以上仲間が死ぬのを見たくはない」
「とにかく今は身の安全が優先だ。ここから離れよう」
イェスタは2人に言った後、花がある場所に向かって叫んだ。
「戻ってこい!雷が止むまで中断だ!」



程なくして次々と数人の男達が走って戻ってきた。
その男達の後にイェスタが林の方に走り出すと、球体をじっと見ているホーパスに向かってシーグフリードが言った。
「ホーパス。辛いだろうがいったんここから離れるんだ。行こう」
「アルマス・・・・・・」
ホーパスは辛そうな表情で球体を見ていたが、シーグフリードが行ってしまうと後を追って行ってしまった。



しばらくしてアルマスが気がついて目を覚ました。



ここは・・・・・・?
周りが真っ暗だ。何も見えない。
僕は一体どうなったんだろう・・・・・。



アルマスは辺りを見回すが、真っ暗で何も見えない。
体を動かしてみると、何かに縛られているような感覚を覚えた。
何かが巻きついていて動けない。



そうだ、花の方を見ようとしたら、いきなり目の前に長いつるが・・・・・・。
そのつるに巻き込まれたんだ。



「ホーパス!どこにいるの?ホーパス!」
何が起こったのか思い出したアルマスはホーパスを呼んだ。
しかし、いないのかホーパスの声も、反応もない。



ホーパスがいない。
それよりも体に巻きついているこのつるをなんとか取らないと・・・・・・。
このままだとまずいような気がする。



アルマスは巻きついているつるをほどこうと、体を動かそうと力を入れた。
もぞもぞと体を左右や前後に動かしてみるが、つるは思ったより強く、びくともしない。
そうしているうちにだんだんと体が疲れてきた。



ダメだ、つるが全く切れないし、動きもしない。
このまま僕はつるに巻かれたまま死んでしまうのかな・・・・・。



・・・・あきらめちゃダメよ。あきらめないで・・・・・・・。



「え?」
突然聞こえてきた声に、アルマスは思わず戸惑った。
どこかから子供のような声が聞こえてきたのだ。



この声は時の女神・・・・・・?
いや、違う。子供の声だ。
女の子の声・・・・・・・。



声が聞こえてきたけど、周りは真っ暗だ。
さっきホーパスを呼んだけど、誰もいないし・・・・・・。
たぶん気のせいかな。



・・・・・ここにいるわ。気のせいじゃない。



「え?」
再び聞こえてきた声に、アルマスは辺りを見回した。
しかし辺りを何度も見回しても、誰かがいる気配すらもない。
「声が聞こえてきたけど・・・・・どこにいるの?」
アルマスが聞いてみると、しばらくして声が聞こえてきた。



・・・・・真っ暗だから何も見えないだろうけど、すぐ側にいる。



「すぐ側にいるって・・・・?君は誰なの?どうしてここにいるの?」
聞こえてきた声にさらに戸惑ったアルマスはさらに聞いた。
すると今度はすぐにこう帰ってきたのだ。



・・・・あなたの望みは何?



「僕の望み・・・・・・?」
アルマスは戸惑いながら、いったん落ち着こうと口を閉じた。
そして深呼吸をすると、心を落ち着かせるようにこう言った。
「このままだと動けないから、動けるようにして欲しい」



すると突然、目の前が真っ白になった。
「うわっ・・・・・・・!」
あまりにもの眩しさにアルマスは思わず一瞬目を閉じたが、すぐにゆっくりと目を開けた。
光がどこから出ているのか気になり、下を向いた途端、アルマスは戸惑った。



この光、僕の体から出てる・・・・・?それともつるから?



アルマスが体に巻きついているつるを見ると、光はつるの奥から出ているように見えた。
つるは光で緑色に光っているが、光はその奥から出ているようだ。



どうして僕の体から光が・・・・・・?



そう思っているうちに体に巻きついているつるがだんだんと緩くなっていくのを感じた。
つるがアルマスの体から離れていくと、アルマスの体は球体の下へと落ちていった。



「うわっ!」



球体の下へ倒れ込み、アルマスはしばらくするとゆっくりと起き上がった。
アルマスの体はまだ光を発しているが、辺りが暗くて全体がよく見えない。



まだ周りが暗くてよく見えない・・・・・もう少し明るくならないかな。



そう思った途端、突然周囲がぱっと明るくなった。
光が球体全体を照らすと、アルマスはゆっくりと周囲を見回した。
全体が緑色の球体で、球体の壁に沿うように緑色のつるがぎっしりと詰まっているようだ。
何本ものつるの先端がゆっくりと前後左右に動いている。
いつ再びそのつるがアルマスに向かってくるのかと思うと、アルマスはぞっとした。



ここから出なくちゃ・・・・・でないとまたあのつるに襲われる。
今度襲われたら今度こそ終わりかもしれない。



「どうすればここから出られる?」



アルマスが辺りを見回しながら聞いた。
するとしばらくしてどこかから再び女の子の声が聞こえてきた。



・・・・・あなたの心に秘めている力を使うの。



「え・・・・・・?それってどういうこと?」



・・・・・時の女神があなたにした事を思い出して。



「時の女神が僕にした事・・・・・?」
アルマスが戸惑っていると、さらに女の子の声が聞こえてきた。



この世界に来た時、時の女神が何をしたのか・・・・・思い出して、アルマス。



「この世界に来た時って・・・・・・」
アルマスは戸惑いながらも、頭の中でその時の事を思い出そうとしていた。



一方、シーグフリード達は林の中へ移動していた。
雨が降り続き、時折落ちる雷に、数人の男達は村へと戻り始めた。
「なかなか止みそうにないな・・・・・・」
イェスタが真っ黒な雲に覆われた空を見ながらつぶやいた。
「どうする?このまま村へ戻るか?」
イェスタが隣にいるシーグフリードを見ると、シーグフリードは球体がある方を見ながら黙っている。
「シーグフリード、どうする?他の仲間は村に戻っているが・・・・・・」
「村に戻るって、アルマスを置いて行くの?」
イェスタがシーグフリードに声をかけている途中、ホーパスが割り込んできた。
イェスタはホーパスを見て
「しかし、この悪天候じゃどうしようもない。雷が止まない限りここから動けない」
「こうなったら今行くしかないな」
シーグフリードがそう言いながら動こうとした途端、数メートル先で稲光が光った。
「!?」
しばらくして大きな雷鳴が聞こえると、イェスタは辺りを見回した。
「このままだとここにいるのも危険だ。いったん村まで戻るか?」
「そんな・・・・・アルマスを見捨てるの?僕はそんな事できないよ!」
それを聞いたホーパスはその場から離れ、球体がある方へと行ってしまった。
「ホーパス!戻ってこい、ホーパス!」
シーグフリードがホーパスの後ろ姿を見るが、雷が落ちたのか雷鳴の音が聞こえてきた。
シーグフリードはどうすることもできないまま、その場を動けないでいた。



アルマスは頭の中で自分の記憶をたどっていた。
「この世界に来た時、時の女神が僕の炎の力を封じたんだ・・・・・・どこに封じたのかは分からないけど」
アルマスは聞こえてくる声を気にしながら、辺りを見回しながら言った。
するとしばらくして声が聞こえてきた。



その通りよ、アルマス・・・・・・あなたの体の中のどこかに、あなたの炎の力があるの。



「僕の体の中のどこか・・・・・・?」
アルマスは下を向き、自分の体を見た。
体はまだ光を放ったままになっている。



アルマス、ここから出たいのなら、今その力を解き放つ時よ。



「どうやって・・・・・・?」
アルマスが声が聞こえてきた方を見上げると、さらにこんな声が聞こえてきた。



簡単よ。ただ心の中で念じればいいの。力を解放するようにって・・・・・・。



「心の中で念じる・・・・・・?」



そう。ここから出たいのなら、生きたいのならやってみるのよ。
アルマスはここで死にたくないでしょう?生きたいでしょう?



それを聞いたアルマスは首を横に振った。



「こんなところで死ぬのは嫌だ。ここにいるだけでもぞっとする。生きたい・・・・。
 僕はまだ死にたくない」



それなら、今すぐやってみるのよ。
大丈夫。私達がついているわ。
目を閉じて、力を解放するように祈るのよ。



「・・・・・・・」
アルマスは半信半疑のまま、とりあえずやってみようと目を閉じた。



「アルマス!」
球体の前まで来たホーパスはアルマスの名を呼び続けた。
「アルマス、返事してよ。アルマス!」
しかし中からは何の反応もない。
「アルマス、大丈夫なの?生きてるの?アルマス!」
ホーパスは再び球体の中へ入ろうと、何度も球体の中へ突進していくが、球体の壁に阻まれてしまう。



何度も繰り返していくうちにホーパスは疲れてきた。
ホーパスはあきらめたように球体の壁の前で止まった。
「アルマス・・・・・・もう会えないの?」
ホーパスが今にも泣きそうな表情で球体の壁を見ている。
「もうこのままお別れなの?答えて・・・・・何か言ってよ、アルマス」
ホーパスの目からは涙があふれてきた。



球体の中では、アルマスが目を閉じて念じ続けていた。
しばらくすると、女の子の声が再び聞こえてきた。



もう少しよ。だんだんと光が強くなってきてる・・・・・・・。
もう少しで力が解放されるわ。



すると突然、アルマスが目を開けた。
アルマスの体からは炎が発せられ、だんだんと大きくなっていく。
球体の中が一気に白い光に包まれ、何も見えなくなっていた。



球体の外ではホーパスが泣いていた。
ホーパスの涙が地面に落ちた時だった。
突然球体が光を放ち、強い光がホーパスの体を包み込んだ。
「え・・・・・・?」
ホーパスが球体を見ていると、球体に突然火がついた。
球体は上から燃えだし、だんだんと炎が下へと移動していく。
そして球体が半分ほど燃え尽きると、球体の中からアルマスが姿を現した。
「アルマス!」
アルマスの姿を見た途端、ホーパスの表情が明るくなった。



球体の方から聞こえてきた声をシーグフリードは聞き逃さなかった。
シーグフリードは右手を腰にある剣にやると、ゆっくりとその場から歩き出した。
「おい、どこへ行くんだ?シーグフリード!」
イェスタが後ろから声をかけるが、シーグフリードは振り返りもせず球体へと歩いて行く。



「アルマス、よかった・・・・生きてたんだね!」
球体が燃え尽き、姿形がすっかりなくなってしまうと、ホーパスはアルマスに近づいた。
しかしアルマスはホーパスを見るが、表情を変えずホーパスの前を通り過ぎて行く。
「アルマス?どこに行くの?」
ホーパスは戸惑いながらアルマスの姿を見ると、アルマスは花がある方へと向かっていくではないか。
「アルマス?僕も行くよ・・・・アルマス!」
ホーパスはアルマスの様子に違和感を感じながらもアルマスの後を追って行った。



程なくしてアルマスは赤い花の前まで来た。
赤い花は様子を伺っているのか、動きがない。
アルマスは花を見た後、静かに両目を閉じた。
しばらくするとアルマスの体から炎が放出され、その炎はアルマスの体を包み、だんだんと大きくなっていく。
大きくなった炎はアルマスの両腕に移ると、アルマスは両目を開けた。
そして両腕にある炎を、前にある花に向かって投げるように向けた。



アルマスが放った炎が花に触れた途端、花は一瞬にして燃えだした。
赤い花びらが燃え始めた途端、さらに空から雷が花に向かって落ちてきた。
大きな雷鳴が響き渡ると、花についていた花びらが全て地面に落ち、全て大きな炎に包まれながら燃えていた。



「やった・・・・・!花を倒したんだ!火を使えるようになったんだねアルマス!」
ホーパスが嬉しそうにアルマスに声をかけながら、アルマスに近づこうとすると、後ろから声が聞こえてきた。
「アルマス!」



ホーパスが後ろを向くと、そこには走ってくるシーグフリードの姿があった。
アルマスはだんだん近づいて来るシーグフリードを見ると、力が抜けたようにその場にゆっくりと倒れ込んだ。
アルマスの体からは炎がすっかりと消えていた。
「アルマス!」
倒れたアルマスにホーパスが驚いて近づくと、シーグフリードがアルマスのところに来た。
「アルマス、大丈夫か?アルマス!」
シーグフリードはアルマスの体を両腕で抱きかかえると、アルマスは気を失っているようだった。
「アルマス、大丈夫?」
ホーパスがアルマスを心配そうに見ている。
シーグフリードはアルマスが息をしているのを確かめると
「気を失ってるだけのようだ・・・・・村へ戻ろう」とその場を後にするのだった。



しばらくするとアルマスは目を覚ました。
目の前には白い天井が見える。



ここは・・・・・・・?



アルマスはぼんやりと天井を見ていると、目の前にホーパスの姿が飛び込んできた。
「アルマス!気がついたんだね!」
アルマスの顔を見た途端、ホーパスは安堵の表情を見せた。
するとシーグフリードとイェスタの顔が同時に目の前に現れた。
「大丈夫か?」
イェスタがアルマスに声をかけると、アルマスはうなづきながら
「ここは・・・・・・村に戻ってきたんですか?」
「ああ、ここはオレの家だ。戻ってきたんだ」
イェスタはうなづきながら続けてこう言った。
「しかしあの花を倒すとはすごいな・・・・あの花と戦って疲れただろう?」
「え・・・・・?あの花って、あの赤い花の事ですか?」
アルマスが戸惑いながら聞くと、それを聞いた3人は戸惑った。



「え?アルマス覚えてないの?」
ホーパスが戸惑いながら聞くと、アルマスはしばらくしてから首を振った。
「・・・・分からない。覚えてないというか・・・・・よく分からないんだ」
「本当に?本当に覚えてないの?」
「花のつるに襲われて、球体の中にいたところまでは覚えてるけど、その後は・・・・・」
「・・・・・・」
ホーパスが黙ったままイェスタとシーグフリードを見ると、イェスタはアルマスに声をかけた。
「そうか、無理に思い出さなくてもいい。とても疲れてるんだろう。もう少し休んだ方がいい」
「ああ・・・・我々は部屋を出ようか」とシーグフリード
「もう少しひと眠りした方がいい。ゆっくり休むんだ・・・何かあったら声をかけてくれ」
イェスタが部屋を出ようとその場から歩き出すと、あとの2人も続いて部屋を出て行った。



「覚えてないなんて・・・・・・」
3人が部屋を出たところでホーパスがつぶやいた。
「ホーパス、アルマスの事をずっと見ていたんだろう?アルマスはどうやってあの花を倒したんだ?」
シーグフリードがホーパスに聞き、ホーパスが答えようとすると、そこにイェスタが割り込んで来た。
「ああ、あの花に雷が落ちて、それで燃えたんだろう?」
「どうして知ってるの?」とホーパス
「林にいた仲間が村へ帰る途中で偶然見たと言っていた。雷が花に直接落ちて燃えたと」
「でも・・・・・・」
「それよりさっき仲間から聞いたんだが、花を倒したことが王様の耳に入った。近いうちに呼ばれるかもしれない」
「何だって・・・・・?もう王様にその話が伝わっているのか?」
シーグフリードが驚いているとイェスタはうなづきながら
「ああ、もしかしたら警察がいたかもしれないな。何かあればすぐ王様の耳に入る」
「どうして王様に呼ばれるの?」とホーパス
「花を倒したから、褒美か何かもらえるかもしれないな」
「そう・・・・・・ふああ」
ホーパスは疲れているのか大きなあくびをしている。
「ホーパスも疲れてるな。アルマスと一緒に少し休んだほうがいい」
「・・・・うん。アルマスが気になるから、部屋に戻って少し休もうかな」
「ああ、そうした方がいい」
「じゃ、僕も部屋に戻るよ」
ホーパスは2人に背を向けると、アルマスがいる部屋へと戻って行った。



シーグフリードとイェスタは別の部屋に移動した。
シーグフリードが大きなテーブルがある椅子に座ると、イェスタはキッチンへと行き、ポットがあるところで止まった。
「しかし今日は疲れたな・・・・・何か飲むか?」
イェスタの声が聞こえてくると、シーグフリードはキッチンの方を向いて
「ああ・・・・でも夕食前だからお茶でいい」
「そうだな。お茶の用意をしようと思ってたところだ。今お湯を沸かす」
「ありがとう」
シーグフリードはキッチンからいったん目を離したが、何かを思い出したように再びキッチンのイェスタに聞いた。
「ところで王様に会うのはいつだ?」



するとしばらくしてイェスタが答えた。
「・・・・そうだな。早くて明日か、遅くてもその次ぐらいだろう」
「そうか・・・・・決まったら何か連絡があるのか?」
「ここに警察か誰かが来るだろう。その時は一緒に城に行く時だ」
「そうか・・・・ならその前に処置をしないといけないな」
「処置?あの塔があった場所にまた行くのか?」
「ああ。塔が二度と来ないように処置をしたい」
「分かった。オレも一緒に行こう」



一方、ホーパスが部屋に戻ると、アルマスがベッドから起きていた。
「アルマス・・・・大丈夫なの?横になってなくて」
アルマスを見た途端、ホーパスは心配そうにアルマスの前に移動した。
アルマスは目の前に来たホーパスを見ると、右手を伸ばした。
そしてホーパスの顔を撫でながら
「まだ疲れが取れないけど、そんなに眠くないんだ」
「でも、横になってないと疲れは取れないよ」
「うん。分かっているけど・・・・でも眠くないんだ。それに・・・・・・」
「それに?」
「考えてたんだ。あの声が誰だったのかって」
「あの声?」
「僕が球体の中にいた時、声が聞こえてきたんだ・・・・最初は時の女神だと思ったけど」
アルマスは右手を放すと、ホーパスに聞いた。
「時の女神はあの場所に来てなかったよね?」



ホーパスは首を振った。
「ううん、来てなかったよ。姿も見なかったし」
「やっぱり違うんだ。じゃ、あの声は誰なんだろう・・・・・・・」
アルマスが両手を頭にやり考えていると、ホーパスが聞いた。
「アルマス、さっき球体から出た時の事は覚えてないって言ってたけど、どこまで覚えてるの?」
「・・・・あの声を聞いて、話をしているうちに辺りが真っ白になったんだ。そこからは・・・・・」
アルマスが話をしている途中でグルグルとお腹が鳴った。



「アルマス、お腹空いたの?」
「・・・・そういえば、今日はあまり食べてなかった。昨日の夜たくさん食べたせいだ」
「イェスタさんから何かもらってこようか?」
「いいよ」アルマスはベッドから立ち上がった。「自分でイェスタさんのところに行く」
「僕も行くよ」



「熱いお茶を淹れたぞ」
イェスタがテーブルにカップを2つ置くと、1つをシーグフリードの前に置いた。
「ああ。ありがとうイェスタ」
シーグフリードが右手でカップを持つと、イェスタはシーグフリードの向かい側に座った。
「ところで塔を探してるって聞いたが、どうして探してるんだ?」
「その話か・・・・・・・」
シーグフリードは話したくないのか、黙り込んでしまった。
そしてカップのお茶をゆっくりとすするのだった。



黙っているシーグフリードにイェスタは言った。
「どうしても話したくないのから仕方がないが、あの塔が何なのか知りたいんだ。ある程度噂には聞いてはいるが」
「・・・・・ああ、あの塔に入れば、自分の望みが叶うという噂か」
イェスタがうなづくと、シーグフリードはカップをテーブルに置いた。
そしてイェスタを見ると、ゆっくりと話を始めた。
「・・・・・オレに弟がいるのは知ってるだろう?」
「ああ、一度会った事があるが・・・・・それでもかなり前だ。確か名前は・・・・・」
「シーグヴァルド」
「ああ、そうだ、シーグヴァルドだ。それでシーグヴァルドがどうかしたのか?」
「シーグヴァルドは「自分はこの国の上に立つ」という考えを持っていた。王様より上の立場になりたいと」
「それはかなりの野心家だな」
「ああ。それに相応しい人柄であればよかったが、オレから言わせれば弟は自己中心的で自分が中心にならなければ気が済まない。
 他人を見た目で判断し、自分より優れていなければ下に見て酷い態度を取る。とても上に立つ者としては相応しくない」
「・・・・・・・・」
「それは亡くなった父も同じ考えだった。だから父はあの村をオレに託そうとしたんだ。それを弟はよく思っていなかった・・・
 そんな時、村に突然あの塔が現れたんだ」



「・・・・・・」
部屋の外ではドアひとつ挟んで、アルマスとホーパスがシーグフリードの話を聞いていた。
部屋に入ろうとした途端、シーグフリードの話が始まり、部屋の中に入れないでいた。



「あの塔に行けば、あの塔の中に入れば、自分の望みが叶う。そんな噂を聞いた弟はあの塔に行ったんだ。
 塔に行けばこの国の支配者になれると思ったんだろう。オレはそんな弟を塔から連れ戻そうとあの塔に行ったんだ」
「それで、シーグヴァルドは塔にいたのか?」
イェスタがお茶をすすり、カップをテーブルに置くと、シーグフリードはうなづきながら
「塔にはいたが、もう村にいた頃の弟じゃなかった・・・・弟はすっかり変わってしまったんだ。
 オレの言う事を全く聞き入れず、自分の野心についてばかり考えるようになってしまった。
 すっかり塔に心を奪われた弟をなんとか説得しようとしたが、全く聞き入れてもらえなかった。
 話をしているうちに言い争いになった・・・・・弟がオレに剣を向けてきた時、突然塔が動き出したんだ」
「・・・・・・・・」
「オレは塔の外に出たが、弟は塔の中に留まった。しばらくすると塔の姿形がだんだんと消えて行ったんだ。
 弟は塔と一緒にどこかに行ってしまった」
「そういうことか・・・・・・・」
「塔が動く前にオレは弟の剣を奪ったが、その剣を取った途端、黒い煙のようなものが出た・・・・・・
 その煙にたちまち巻き込まれたが、その時は何が起こったのか分からなかった。でも、それ以来オレの周りでは死人が次々と
 増えていったんだ・・・・・あの剣には呪いがかかっているのかもしれない」
「・・・・・・・・」
「オレは塔を見つけて、弟を説得し村へ連れ戻したいんだ。それにあの剣の呪いを解きたい」



部屋の外で話を聞いていたアルマスは腑に落ちた。
どうして塔を探しているのか、なぜあの剣を触らせてもらえなかったのか。
シーグフリードの話を聞いて理由が分かったのだ。



「・・・・話が終わったのかな、何も聞こえてこない」
ドアの側で聞き耳をたてているホーパス
「そろそろ中に入ろうか」
アルマスがドアを開けようと、右手をドアに伸ばした時だった。
ドアが開き、中からシーグフリードが出てきたのだ。
「何だ?お前達・・・・・ずっとここにいたのか?」
シーグフリードが少し驚いた表情で2人を見ると、ホーパスは明らかに動揺した様子で
「え?い、いや・・・・・さっき来たばかりだよ。ね?アルマス」とアルマスを見た。
アルマスは一瞬動揺した表情を見せたが、すぐに落ち着いてシーグフリードを見た。
「中に入ろうとしたら、話声が聞こえてきて・・・・・しばらく話を聞いていました」
「アルマス!」
「でも話を聞いて分かりました。どうしてあの剣を触らせてもらえなかったのか」
「それで・・・・そもそもここには何の用で来たんだ?」とシーグフリード
するとホーパスがシーグフリードの前に来て
「アルマスがお腹空いたみたいだから、何か食べ物をもらおうと思って」
「そうか。なら中に入ればいい。それとまだ話の続きがある」
「え?まだ話終わってないの?」
「ああ・・・・・今その剣をイェスタに見せようと、外に出ようとしていたところだ」



しばらくするとシーグフリードが右手に剣を持って戻ってきた。
「これがその剣だ」
シーグフリードはテーブルの上に剣をそっと置くと、3人はじっとその剣を見ている。
「これがお前の弟が持っていた剣か・・・・・・」
イェスタが椅子から身を乗り出し、剣に近づくと右手を伸ばそうとした。
「触るな!」それを見たシーグフリードが大声を上げた「触るんじゃない!お前にまで呪いがかかるぞ」
「わ・・・・・分かった」シーグフリードの声に対し、イェスタが驚きながら手を止めた。
そして椅子に座ると剣を見ながら
「でもそれだと先にこの剣の呪いを解いた方がいい。いつまでもこのままにしておくわけにはいかないだろう?」
「ああ、分かってはいるが・・・・・・どうすればいい」
「確か、呪いを解く場所があったような・・・・・・・」
「それはどこだ?」
「・・・・おそらく王様が知っているだろう。城に行って王様の他に知っている者がいないか確認してみる」



それから数日後。
シーグフリードは再び塔があった場所に行き、塔が二度と来ないように処置を済ませた。
城から使者がやって来ると、シーグフリード達は使者と共に城へと向かった。
城に着き、王様から褒美として勲章を受け取った後、1人の家来らしき男性がイェスタのところにやって来た。
イェスタがその家来としばらく話をして、家来がその場を去った後、イェスタは少し離れたところで待っていた
シーグフリード達のところへ向かった。



「どうだった?」
シーグフリードがイェスタを見るなり聞いた。
「ああ、見つかった。ここから少し離れた湖の離れ小島の教会に呪いを解く者がいる」とイェスタ
「何だって・・・・・その教会へはどうやって行くんだ?」
「船で行くしかないだろうな」
「船で行くの?ここから遠いの?」とホーパス
「いいや、そんなに遠くはないと思う・・・・ちょうど明日、教会でミサが行われる。教会へ行く船が出るからそれに乗ればいい」
「でも、いきなり行って大丈夫なんですか」とアルマス
「ああ。王様から行ってもいいという許可が出ている。これを見せれば大丈夫だと言っていた」
イェスタが右手に持っている1枚の紙を広げ、3人に向けて見せた。
3人が見ると、下の方には王様のサインが入っている。
「これを見せればいいんだな・・・・・」
シーグフリードが王様のサインを見ていると、イェスタはうなづきながらその紙をシーグフリードに渡した。
「今から渡しておこう。これで明日教会に行けるな」
「ああ・・・・ありがとうイェスタ」



翌日になり、シーグフリード達は湖の船着場にいた。
船には子供達や年配の夫婦、様々な人達が次々と乗って行く。
シーグフリードが馬を連れて船に近づくと、船の側にいた男性に声をかけられた。
「すまないが、その馬は乗せられない。置いて行ってくれないか」
「え・・・・・・」
シーグフリードが戸惑っていると、少し離れたところで見ていたイェスタがやってきた。
「馬は乗せられないのか。じゃ、馬はこっちで預かる」
「すまない、じゃ剣を取るから少し待ってくれないか」
シーグフリードは乗船の列から馬を連れて離れると、馬に乗せている剣を取った。
そして手綱をイェスタに渡すと、イェスタは手綱を取りながら言った。
「気をつけて行ってくるんだ。うまくいけばいいな」
「ああ・・・・色々とありがとう、イェスタ」
「うまくいくことを祈っているよ・・・・・早く乗らないと乗り遅れるぞ」
「分かってる。終わったらすぐに戻る」
シーグフリードは船を見ると、そのまま船へと歩き出した。



シーグフリードが船に乗ると、しばらくして船がゆっくりと岸から離れて行った。
船は離れ小島の教会へと向かって行くのだった。